2019 Fiscal Year Research-status Report
膵臓ベータ細胞脱分化の改善を目指した2型糖尿病の新たな治療戦略
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18K16222
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Research Institution | Gunma University |
Principal Investigator |
石田 恵美 群馬大学, 医学部附属病院, 助教 (80806357)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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Keywords | 糖尿病 / β細胞機能不全 / β細胞脱分化 / 食餌療法 / 脂肪肝 |
Outline of Annual Research Achievements |
2型糖尿病では、経時的にインスリン分泌能が低下するβ細胞機能不全が生じるが、β細胞機能不全の一因として、近年提唱されたβ細胞脱分化は、肥満モデルマウスにおいては、食事制限やPPARγ作動薬で進行阻止されることが判明している。β細胞脱分化抑制によるβ細胞機能不全の阻止という、新たな糖尿病治療法を開発するため、我々はまずβ細胞脱分化の分子メカニズムの解明を目指し、昨年度は食事中の主要栄養素バランスとβ細胞脱分化の関係の解明から着手した。カロリー当たりの脂質含有比を増した調整飼料(HF)と、糖質含有比を増した飼料(HC)を準備し、肥満モデルマウスのdb/dbヘテロ接合体と同じカロリー摂取になるようHF食、もしくはHC食のPair-feedingを1か月間行ったdb/dbマウスを解析したところ、体重低下作用やglucose tolerance testに両群の差はなかったが、HF群の方が脂肪肝がより改善しており、β細胞脱分化は改善傾向にあった。 上記結果を受け、本年度はHF群とHC群の膵島を単離し、β細胞分化・脱分化に関連する遺伝子発現量をqPCR法にて測定したところ、HF群の膵島でβ細胞分化傾向が高い遺伝子発現パターンを示すことが分かった。また、当初の研究計画を一部発展させ、HF群とHC群での脂肪肝の状態をより詳細に検討する実験を追加した。その結果、HF群に比べHC群の肝臓では中性脂肪・コレステロール合成関連遺伝子発現が増加しており、肝脂肪含有量の増加が起こっていた。 これらの研究結果は、β細胞機能不全と主要栄養素の摂取バランスというあまりエビデンスのない領域に新たな知見をもらたし、またβ細胞脱分化の更なる分子メカニズム解析に役立つ結果である。また肥満糖尿病における、β細胞機能と脂肪肝の連関を解明する研究の端緒となる結果と考えられる。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
元の研究計画では、栄養素バランスとβ細胞脱分化の関係、また食事制限を行った肥満モデルマウスでの膵島RNAの変動遺伝子解析の他に、PPARγ共役因子であるHelz2ノックアウト(KO)マウス(肥満抵抗性モデル)におけるβ細胞脱分化の解析を予定していたが、予想より高脂肪食下においたHelz2KOのnをそろえるのに時間がかかっていることと、上述のとおり、途中までの研究結果に応じ、脂肪肝とβ細胞機能脱分化の関連を解析する、計画の一部を発展させた実験に先に着手し始めたため、Helz2KOマウスの解析のみ予定より遅延しており、栄養素バランスとβ細胞脱分化の関係の解析については計画より進行している状況である。
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Strategy for Future Research Activity |
HF食(高脂質/低炭水化物食)とHC食(高炭水化物/低脂質食)によるカロリー制限で、肥満糖尿病モデルマウスでβ細胞脱分化および脂肪肝のいずれも差が生じる結果を踏まえ、食事からの糖/脂質比のバランスが、まずは肝での糖脂質代謝遺伝子をどのように変化させ、肝脂肪蓄積状態に影響を与えるのか検討するため、HF群、HC群の肝より抽出したRNAを用いてRNA-seqを行い、両群の遺伝子発現の網羅的解析を行う。また糖尿病の主たる合併症の一つが脂肪肝であること、脂肪肝が肝でのインスリン抵抗性を高めることを鑑みると、β細胞機能と脂肪肝・肝のエネルギー代謝状態が互いに連関しあう膵肝連関の存在が示唆される。この連関を担う候補分子として、マウスに投与することで血糖改善・脂肪肝改善の両者をもたらすFGF21と、摂取栄養に応じて腸管より分泌され、インスリン分泌能に影響し、かつ治療薬として脂肪肝改善効果やβ細胞機能改善効果も期待されているGLP-1に着目し、両分子と、HF食・HC食によるカロリー制限によってdb/dbマウスに生じるβ細胞脱分化・脂肪肝の変化との関係について解析する。一方で、脂肪肝自体がβ細胞脱分化に直接影響するか検討するため、肥満過食・糖尿病を経ずに非アルコール性脂肪肝炎をおこすモデルマウス(メチオニン・コリン欠乏食マウス等)におけるβ細胞機能の解析を行う。 上記実験は、すでに2020年度若手研究課題(20K17484)として採択されており、本研究から引き続き2020年度以降も取り組む予定である。また、進捗の遅れたHelz2KOマウスにおけるβ細胞脱分化の解析についても、Helz2KOマウスが高脂肪食による脂肪肝誘発の抵抗モデルであることを踏まえ、本研究課題終了後も引き続き解析する予定である。
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Causes of Carryover |
当研究の成果発表を予定している内分泌学会、糖尿病学会、米国糖尿病学会は、毎年前年度の秋から冬にかけて演題募集され、実際の発表日は翌年の4-6月になる。このため、2019年度の成果発表のための学会旅費は実質2020年度に計上されることになる。このため本研究計画を2020年度末まで延長した。しかしながら、2020年3月のCovid19感染拡大のため、大学の方針で研究活動を控えることとなり、3月に購入を予定していた試薬の購入見送りとなり、3月に使用する予定だった試薬購入用の研究費を一部2020年4月以降へ繰り越す必要が生じ、かつ2020年春の各学会はすべてオンライン発表等になり旅行費がほぼ発生しなくなった。したがって、現在の残高344,675円については、3月に購入予定だった試薬代に当てる予定である。
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Research Products
(2 results)