2021 Fiscal Year Research-status Report
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18K16412
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Research Institution | Chiba University |
Principal Investigator |
坂入 祐一 千葉大学, 大学院医学研究院, 助教 (30551949)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | 肺癌幹細胞 |
Outline of Annual Research Achievements |
肺癌が難治性である理由の一つとして、肺においては同定されていないものの癌幹細胞が存在し、その治療抵抗性から再燃・再発をきたすメカニズムが知られている。本研究は、肺癌における癌幹細胞を同定しその機能を解析することで、新たな治療標的となる分子を同定することを目的としている。これまでの研究で、一部の組織幹細胞が培養後に急激に増殖し、モノクローナルな増殖およびテロメア長の異常伸長がおこる現象を発見している。この変化は肺組織幹細胞における癌幹細胞化であると考えており、これらの細胞の機能解析を通じて、癌幹細胞のさらなる理解と新規治療法の開発が可能であると考えている。本研究では、ヒト検体による肺癌幹細胞の同定・機能解析を経て背景疾患や組織型ごとの治療ターゲットとなる分子または経路を推定し、将来的な新規肺癌治療へ結びつけることを最終目標としている。 これまで、ヒト検体を用いた研究の承認を得てから研究を開始した。審査ののち、解析まで含めた本研究に関する包括的な承認が得られている。これまでにCovid-19流行前に収集可能であった当科での手術例5例で本研究の同意書を取得し、肺組織および肺癌組織を採取した。得られた検体は計画書通りソートすることで生きた細胞のみを抽出しており、対象細胞よりRNAを抽出することが可能であった。腫瘍片から採取されたRNA量は191±157ng(SD)であり、RINスコアも6.9-8.9と解析に耐 えうるものであった。同一症例の正常肺からもRNAを採取し、これをコントロールとして機能解析のために次世代シーケンサーにかけたところ、RNAから平均4973664.609±1092999.99リードを得ることができた。 このデータの解析方法について、再度当院の生命倫理委員会に諮り、承認を得た。今後、Covid-19検査陰性が確認された症例を対象に症例集積を進める予定である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
肺癌幹細胞の同定のために、細胞の単離を行った。術前に研究同意を文書で得られた患者を対象に、癌部および非癌部それぞれを対象として、術後ただちに清潔野において単細胞への分離を行った。熟練した外科医によってこれらの処置は行われ、患者不利益とならぬよう、病理検体に影響しないよう細心の注意を払い検体採取を行っていた。しかし2020年以降はCOVID-19のために肺の生検体の採取が困難であり、症例集積の障害となっている。 以前の検体から、単細胞の懸濁液を得てLysis bufferを用いて溶血させた後、十分に洗浄したうえでCD45およびDAPIで染色し、CD45陰性かつDAPI陰性となる生きた細胞をソートして単離し得ることができた。これらの細胞の検証目的に、肺における生細胞を対象としたそれぞれの細胞よりRNAを抽出し、繰り返しDNase処理を行い純度の高いRNAを採取した。次世代シーケンサーにより、現在解析を進めている。 さらに、本研究では正常肺を背景にもつ肺癌患者のみならず、慢性閉塞性肺疾患や特発性肺線維症といった、難治性慢性肺疾患を背景にもつ肺癌患者も対象として解析をする予定としている。結果を疾患ごとに分けて組織型の違いや遺伝子発現プロファイルの違いを検証することを検討しているが、そのための患者背景による症例選択をあわせて行っている。 本研究の計画段階における進捗予定では、2019年度に肺癌幹細胞の同定を終え、さらに肺癌幹細胞の機能解析を開始する予定としていた。現時点では症例数を蓄積し、同意の得られた患者から採取した新鮮肺より癌部・非癌部の組織採取を行った。さらに細胞分離・RNA抽出を行い研究を進めている。2020年に入ってからはコロナウイルス感染予防のために検体採取が難しい状況にあり、症例集積が進んでいなかったが、ワクチンの普及や検査態勢の充実とともに現在は症例集積の目処がたってきた。
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Strategy for Future Research Activity |
本研究を完遂するにあたり、まず今後サンプル採取に適した患者選択を行い、対象検体を増やす必要がある。本研究においては、検体数を増やして個体間のばらつきを減らした上での解析が必要である。さらに研究計画3に基づき、異なる背景をもつ肺癌での解析も予定しているため、十分な腫瘍検体採取が可能となるような腫瘍サイズの症例を選別したうえで、基礎疾患の異なる患者を対象とした追加の検体採取が必須となる。このように、引き続き患者エントリーと検体採取の継続は未だ必要である。 次のステップとして、難治性慢性肺疾患を背景にもつ肺癌患者も対象に背景肺の疾患ごとに結果を分けて、組織型の違いや遺伝子発現プロファイルの違いによる癌幹細胞の変化に関してもあわせて検証していく。さらに癌幹細胞に特有の因子をピックアップし、これらの因子に共通して関わるシグナルのキーとなる蛋白を同定し、癌幹細胞に有効な治療ターゲットを探索する。現在までに得られた検体の解析に使っていない蛋白分画などの一部は保存してあり、追加の解析が行えるように計画している。 最終的には、十分な症例数の検体が集まった段階で、順次解析を行っているシーケンスの結果をもとにした治療ターゲットの同定と、得られた肺癌サンプルからc-kitを含めた幹細胞マーカーの検索を引き続き行う予定である。症例のばらつきをコントロールするためには十分な症例数は必須であることから、今後多量の肺検体を処理する必要がある。肺の生検体を採取・処理するための感染対策プロトコルをもとにした実験計画を立てており、安全管理を十分に行ったうえで引き続き研究を継続する。
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Causes of Carryover |
本年はコロナウイルス感染対策として肺の検体採取が困難であった。本研究では術直後の肺を採取し処理するため、ウイルス感染リスクが極めて高い状況だった。現在、全手術患者はCOVID-19のスクリーニングを術前に行っている。1%未満の検査偽陰性例が見込まれているが、万が一感染症例の肺であっても処理できるよう、個人防護器具や検体処理のための独立した場所を確保した。今後検体集積を進め、差額は次年度に集積された検体に対し使用予定である。
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