2020 Fiscal Year Research-status Report
難治性肺疾患に対する脂肪組織由来間葉系幹細胞を用いた幹細胞治療の基礎研究
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18K16424
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Research Institution | Nagasaki University |
Principal Investigator |
土肥 良一郎 長崎大学, 病院(医学系), 助教 (00817786)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | 脂肪組織由来間葉系幹細胞 / 肺再生 / 肺胞上皮細胞 / 細胞治療 / Muse細胞 / 脱分化脂肪細胞 |
Outline of Annual Research Achievements |
難治性肺疾患を対象とした幹細胞治療による肺再生医療の実用化へ向けて解決すべき課題は、損傷を受けた肺組織への幹細胞の定着率の改善、および生体内外における幹細胞の各種肺細胞への分化誘導法の確立である。本研究の目的は、脂肪組織由来の幹細胞の、1)肺組織への定着率改善、および2)肺胞上皮細胞への分化誘導法を確立することにある。 平成30年度は、正常ラット肺の脱細胞化スカフォールド上において、1)血管内皮細胞との共培養によるAdipose derived stromal cells(ADSC)の定着率の改善、2)ADSCの肺胞隔壁などの間充組織への自己遊走能を明らかにした。ただ、同条件下では間質のリモデリングを起こし肺胞構造が破壊されたため、ヘテロな細胞集団であるADSCを肺細胞治療へ用いることの弊害が示唆された。 令和元年度は、1)ラット肺胞上皮細胞との共培養によるADSC定着率の改善を明らかとしたが、ADSC中の幹細胞の分化解析が困難であった。より高純度な幹細胞の利用を意図して、Muse細胞(Multilineage differentiating stress enduring cell)を用いた三次元培養モデルを作成した。Muse細胞単独投与による脱細胞化スカフォールド上への定着を明らかとし、Muse細胞を用いた肺細胞治療の可能性が示唆された。 令和2年度は、高純度で大量培養が可能な幹細胞源としてヒト脂肪組織由来の脱分化脂肪細胞(de-differentiated fat cells: DFAT)を用いて、肺胞上皮細胞のニッチ環境である脂肪線維芽細胞へ分化誘導する技術の開発へ注力した。同時に、共培養に用いるヒト肺細胞の単離と培養を進め、DFAT由来のニッチ細胞と2型肺胞上皮を順次供給する方式での細胞治療技術の開発を進めている。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
4: Progress in research has been delayed.
Reason
実験の進捗状況としては、全実験計画の第1段階である「幹細胞の肺組織への定着」の途中であり、当初の予定よりも遅れている。その最大の要因として、脂肪組織の中から細胞治療に用いる最適な幹細胞源の選定に時間を要したことが挙げられる。 ADSCに関しては、定着率改善を可能とする血管内皮細胞との共培養条件下では肺胞間質のリモデリングが起きてしまうために、当初の狙いであった「幹細胞と肺胞腔の細胞外マトリックスとの間の相互作用」を評価する三次元モデルの確立ができなかった。培養条件の最適化も試みたが至適な条件は見つからず、ラットADSCと共培養する細胞を変更するに至った。ラット肺胞上皮細胞との共培養では、特に解析においてADSCのヘテロな細胞構成が課題となった。細胞治療に用いる細胞源として、ADSCと同じく脂肪組織より抽出できる高純度でよりStemnessの高いMuse細胞を用いる方針とした。しかし、細胞抽出後の大量培養という課題をクリアできずに、Muse細胞を用いた細胞治療の開発も途中で止まっている。現在は、脂肪組織より採取できる幹細胞であるDFATを細胞源とする細胞療法の開発へ注力している。
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Strategy for Future Research Activity |
実験進捗が遅れていることへの現状の打開策として以下の対策を講じた上で、研究期間を延長した。 1)脂肪組織由来の幹細胞を肺胞上皮細胞のニッチ構成細胞へと分化誘導する:脂肪組織由来の幹細胞を肺胞上皮細胞へ分化誘導することを当初の目的としていた。しかし、現時点で細胞治療に用いる脂肪組織由来の幹細胞としてDFATが有力であり、DFATの分化誘導に関するこれまでの既報を考慮すると、肺胞上皮そのものへ分化誘導するより肺胞上皮のニッチ細胞である肺脂肪線維芽細胞への分化誘導を開発する方が現実的である。一方で、iPS細胞から2型肺胞上皮細胞を誘導する方法は確立されている。DFATから肺胞ニッチ細胞を分化誘導し肺組織へ分布させて肺胞のニッチ環境を再整備し、iPS細胞などから分化させた各種の肺胞上皮細胞を迎え入れて、細胞の定着と同時に移植細胞の分化維持を同時に成す戦略へ変更した。 2)ヒト細胞を用いたモデルの活用:本研究の究極の目的はヒト肺の細胞治療の開発であるため、研究で用いる各種細胞の単離を手術検体で生じたヒト組織から採取した単離した各種細胞を研究へ用いることで、動物実験結果のヒトへの外挿性という将来的な課題をクリアし、肺細胞治療の実用化へつなげてきたい。 令和3年度は、1)DFATの肺脂肪線維芽細胞への分化誘導法の確立、2)ヒト疾患肺に対する肺脂肪繊維芽細胞と肺胞上皮細胞を用いた細胞療法の定着と分化維持の基礎研究へ注力する方針である。
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Causes of Carryover |
実験進捗の遅れにより、当初予定していたヒト疾患肺に対する肺脂肪繊維芽細胞と肺胞上皮細胞を用いた細胞療法の定着と分化維持の基礎研究の細胞治療実験を実施できなかったために、次年度使用額として1,972円が生じた。次年度において、細胞培養関連の試薬などの物品費に使用する予定である。
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