2018 Fiscal Year Research-status Report
オピオイドへの耐性形成に関与するオピオイド受容体制御機構の解明
Project/Area Number |
18K16446
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Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
清水 覚司 京都大学, 医学研究科, 助教 (80802793)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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Keywords | オピオイド受容体 / 耐性形成 / Gタンパク質共役型受容体 / 翻訳後修飾 / アレスチン / 内在化 |
Outline of Annual Research Achievements |
オピオイドへの耐性形成には、リガンド刺激依存的にオピオイド受容体を内在化し、再感作・再利用経路へと導く分子群や、受容体への翻訳後修飾様式が重要な役割を果たすと想定されている。本研究分野の先行研究は、ヒト胎児腎細胞(HEK293細胞)などを利用してオピオイド受容体を異所性に強制発現させた実験系を利用したものが主流であり、受容体へのリン酸化修飾やユビキチン化修飾のような翻訳後修飾や、アレスチンなどの特定のアダプター分子が受容体の内在化に与える影響について解析されてきた。しかし、先行研究は、異所性・強制発現系を利用しているため、オピオイド受容体を制御する分子機構を全て備えた実験系ではない。また、特定の修飾様式・結合分子群に限定した解析結果であったという問題がある。 本研究計画では、内在性にμオピオイド受容体を発現しているヒト神経芽細胞腫・SH-SY5Y細胞を実験系とし、質量分析法によって網羅的に受容体制御因子を探索する研究を立案した。従来、神経系細胞株は遺伝子導入効率が低いために実験系となりにくいという問題があった。また、市販の抗体では「内在性に発現する」μオピオイド受容体を、効率よく免疫沈降したり、ウェスタンブロッティング法やフローサイトメトリー法、免疫染色法を用いて高い感度で検出することが困難であった。そこで、近年飛躍的に向上した遺伝子導入技術や、CRISPR/Cas9を利用した遺伝子改変技術を応用し、ゲノムDNAのμオピオイド受容体遺伝子(MOR1)のN末端側にHA配列を組み込んだ細胞株を樹立した。ゲノム編集技術を応用することで、HA配列に対する抗体を利用し、強制発現系でない、生理的な発現量調節下にあるμオピオイド受容体を高感度で検出することができた。このように、内在性のμオピオイド受容体を高感度で検出できる実験系を利用した先行研究はなく、新しい知見が得られると期待できる。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
本年度は、研究実績の概要に記載した細胞株の樹立に続き、質量分析法を利用して活性型受容体への結合分子や翻訳後修飾様式を同定し、受容体内在化に関与する候補因子を抽出する計画であった。 研究計画立案時は、MOR1遺伝子のN末端側に、質量分析法で頻用される3×FLAG配列をKnockinする細胞株の樹立を計画していた。しかし、予備実験を行うと、細胞外領域であるN末端側に3×FLAG配列やFLAG配列を付加したMOR1は、293細胞では強制発現できるが、SH-SY5Y細胞では強制発現できないことが明らかになった。詳細に解析すると、3×FLAG配列やFLAG配列を付加すると、転写・翻訳は問題なく行われるが、細胞膜に適切に配置されないことが判明した。神経系細胞と293細胞では、受容体の翻訳以降の細胞内輸送などの分子機構に差異があり、適切に細胞膜上に配置されないと考えられた。そこでタグ配列の選択を再検討し、HA配列であればMOR1のN末端側に付加してもは適切に細胞膜に発現することが確認された。このようにMOR1のN末端側に付加するタグ配列の選択に予期しない実験時間が必要になった。また、上述の細胞株樹立と並行し、先行して樹立していた強制発現系を利用して、μオピオイド受容体を免疫沈降する条件検討に着手した。μオピオイド受容体は疎水性領域が多いため、可溶化条件や、免疫沈降したビーズ・抗体複合体からの溶出条件などの検討に当初予定以上の時間がかかった。予備実験として、未刺激のHA-MOR1免疫沈降産物をSDS-PAGE法で展開し、μオピオイド受容体に相当するゲル断片を質量分析法で解析したところ、強制発現系を用いても質量分析法での解析に必要十分なタンパク量を回収できていないことが判明し、質量分析法による解析を進めるには、さらに大過剰にHA-MOR1を発現した実験系を用いる必要があることが明らかになった。
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Strategy for Future Research Activity |
まず、実験系の問題を明らかにするために質量分析を行った過剰発現系が、内在性の発現量と比較してどの程度の発現量であるかを解析した。ゲノム編集技術で内在性MOR1にHA配列を付加した細胞株を利用して、HA-MOR1を過剰発現したSH-SY5Y細胞の細胞表面上の受容体発現量をフローサイトメトリー法で比較すると、強制発現系は内在性発現量のわずか数倍程度の発現量であることがわかった。質量分析法を利用して翻訳後修飾様式を解析するには、さらに数百倍の免疫沈降産物が必要であると推定された。そこで当初予定を変更し、過剰発現系を利用して候補因子を抽出した上で、過剰発現に伴う非特異的な因子を除外する方針をとることにした。また、SH-SY5Y細胞は遺伝子導入効率が低いため、上記研究概要で記載した遺伝子導入方法(Piggybac vector system)を利用した方法では、発現量をこれ以上増やすのは困難であると考え、レンチウイルスを利用した発現系を新しく樹立した。293細胞を利用した先行研究で頻用さているタグ配列がSH-SY5Y細胞では利用ができないことが判明したり、内在性発現量に比べて数倍程度発現量の多い強制発現系では質量分析法による解析が困難であることが明らかになるなど、当初計画では想定されなかった事態に直面した。一方で、本年度の研究結果からは、神経系細胞と先行研究で利用されている293細胞とでは、研究計画立案時に想定していた通り、受容体発現制御に関わる因子が異なる可能性が示唆され、神経系細胞を利用した本研究が従来の知見とは全く異なる知見に繋がりうると考えた。遺伝子発現系の樹立には想定外の時間を要したが、当初研究計画においても候補因子の抽出の後には、候補因子の生理学的意義を遺伝子操作利用して解析する予定であり、今後の研究計画を進める上では必要不可欠な予備実験を進めることができたと考えている。
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