2019 Fiscal Year Research-status Report
術後せん妄に対する新規治療としての神経ステロイドの有効性
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18K16484
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Research Institution | Kochi University |
Principal Investigator |
青山 文 高知大学, 教育研究部医療学系臨床医学部門, 助教 (60783735)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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Keywords | 術後せん妄 / 高齢者 / マイクログリア / 脳内神経炎症 / 神経ステロイド |
Outline of Annual Research Achievements |
術後せん妄(Postoperative delirium: POD) は, 手術・麻酔を契機に生じる認知障害で, 特に高齢者で問題となる。PODは, 高齢者に多く発症する事が特徴であり, 患者のQOL低下に加え, 生命・認知予後にも悪影響を及ぼす。また, 入院期間の延長による医療費の増大に伴う経済的な損失も大きい。しかし, POD発症の詳細な機序は明らかでなく, 現時点において特異的な予防方法もない。PODの発症機序の解明ならびに, 臨床応用を見据えた治療介入の検討が必要である。本研究では, 高齢ラット開腹手術モデルを用いて, PODの発症機序におけるマイクログリア/脳内神経炎症反応の関連性を明らかとし, これらの病態に基づく周術期予防戦略として, 神経ステロイドによる新規の治療・介入効果を基礎的アプローチにより検討することを目的とする。 当該年度においては, 昨年度に開発した, 高齢患者のPODを想定した, PODモデル(高齢ラット開腹手術モデル)を用いて, 神経ステロイドによる介入効果を検討した。まず, PODの病態として脳内神経炎症に注目していることから, PODモデルの海馬を摘出し, 炎症性サイトカイン(TNFα, IL-1β) のmRNA発現量をRT-PCR法で評価した。これまでにPODモデルの海馬の炎症性サイトカインをターゲットとしてRT-PCR法で評価を行った報告は存在しないため, 開腹手術後にどのタイミングで炎症性サイトカインが上昇するのか, 経時的に評価を行った。次に, 最もサイトカインが上昇するタイミングにおいて, 神経ステロイドの介入・治療効果を検討した。今後はさらに, PODモデルによる行動評価に加え, 蛋白量をELISA法でそれぞれ測定し, 評価する。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
昨年度構築したPODモデルを用いて, RT-PCR法による術後脳内神経炎症の経時的な評価を実施した。これは, 脳内炎症性サイトカインのmRNA発現が増加するタイミングを把握することで, 神経ステロイドの介入効果の評価に適した時期を検討する事を目的とした。PODモデルは高齢者の開腹手術を想定し, 上腹部正中に小切開をおき, 小腸を3分間刺激した後, 閉創する開腹手術を行った。その結果, 術後早期に海馬の炎症性サイトカインが上昇している事が示され, PODの発症に脳内神経炎症が寄与する可能性がある。この結果は, 人におけるPODの介入においても, 術後早期から予防・治療介入を行う重要性が示唆された。また, 神経ステロイドによる介入・治療効果の検討を行った結果, 炎症性サイトカイン (IL-1β, TNF-α) の増加が, 神経ステロイド介入群で抑制される事が, RT-PCR法による評価で明らかとなった。PODモデルを構築し, 海馬における炎症性サイトカインの新規評価方法であるRT-PCR法を計画し, 大きな問題なく遂行している。
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Strategy for Future Research Activity |
今後は, PODモデルに対する神経ステロイドの介入効果を多角的に評価するため, 行動実験およびELISA法を用いて詳細に評価を行う予定である。行動実験では, PODの代表的な症状である, 注意力と認知力の評価を痕跡記憶試験と文脈記憶試験を組み合わせて実施する予定である。また, ELISA法に関しては, RT-PCR法と同様に, 開腹手術後の海馬の炎症性サイトカイン(IL-1β, TNF-α)を測定し, 神経ステロイドの介入効果を検討する。 さらに, PODモデルにおける神経ステロイドの脳内神経炎症サイトカインの抑制機序についても検討を行い, 新規治療薬として期待される神経ステイロイドによる介入評価をより発展させ, 継続していく。
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Research Products
(2 results)