2021 Fiscal Year Research-status Report
高脂肪食によって炎症が起こるメカニズムの解明と前立腺癌に対する治療への応用
Project/Area Number |
18K16693
|
Research Institution | Osaka University |
Principal Investigator |
林 拓自 大阪大学, 医学系研究科, 招へい教員 (50747079)
|
Project Period (FY) |
2021-03-01 – 2023-03-31
|
Keywords | 前立腺癌 / 高脂肪食 / 炎症 / 腸内細菌叢 / モデルマウス |
Outline of Annual Research Achievements |
前立腺癌モデルマウスにおいて、高脂肪食はマクロファージからのIL6産生を増加させ、前立腺癌の増殖を促進した。腫瘍内に抗腫瘍免疫を抑制する免疫細胞であるMDSCが肥満前立腺癌患者においてより多く浸潤していた。これらの結果は2018年日本泌尿器科学会総会で発表し、Clinical Cancer Researchに論文として報告済みである。 免疫調整作用を有すると報告されているメトフォルミンを高脂肪食投与モデルマウスに投与すると、高脂肪食による癌の増殖が抑制され、局所でのMDSCの増加が抑制された。メトフォルミンを内服している前立腺癌患者はそうでない患者と比較して癌の予後がよいという疫学的データが報告されており、本研究結果からメトフォルミンの前立腺癌に対する治療効果のメカニズムの一つとして、炎症反応が関連していることが示唆された。この結果はInternational Journal of Urologyに論文として報告済みである。 高脂肪食による前立腺癌の増殖促進のメカニズムに腸内細菌叢が関与しているのではないかという仮説から、高脂肪食投与のモデルマウスに抗生剤を投与すると前立腺癌の増殖が抑制された。これらのマウスの糞便を解析したところ、抗生剤投与によって担癌マウスの腸内細菌叢が大きく変化していることが明らかとなった。抗生剤投与によってマウスの全身および局所でのIGF1発現が低下し、IGF1受容体発現とPI3KおよびMAPK経路の活性化が抑制されていた。前立腺癌細胞株はIGF1存在下で増殖が促進した。抗生剤投与で短鎖脂肪酸が減少し、抗生剤と高脂肪食を投与したマウスに短鎖脂肪酸を投与すると全身のIGF1濃度が上昇し、癌の増殖が促進された。肥満前立腺癌患者では局所のIGF1がより高発現していた。以上の結果をCancer Researchに論文として報告した。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
前立腺癌モデルマウスを用いて、高脂肪食による前立腺癌増殖促進のメカニズムを解析する当初の目的については、現在までの研究の進捗状況で十分達成できていると考えている。 さらにヒスタミン合成経路に着目することで、局所での肥満細胞を介した前立腺癌増殖メカニズムについても詳細に検討可能となっており、その解析を進めていく準備ができている。 これらのことから本研究の目的に対する現在までの進捗状況としてはおおむね順調に進展していると評価している。
|
Strategy for Future Research Activity |
高脂肪食によって前立腺癌の増殖が促進されることが示唆され、そのメカニズムとして局所での炎症反応が関連していることが証明された。 そのメカニズムの詳細として、局所でのマクロファージやIL6、短鎖脂肪酸やIGF1が関与していることを明らかにした。 前立腺癌モデルマウスにおいて、高脂肪食は局所に浸潤している肥満細胞のヒスタミン脱炭酸酵素の発現を上昇させており、ヒスタミンH1受容体阻害剤をモデルマウスに投与することでこのメカニズムの解明を目指している。 これらのメカニズムをさらに詳細に検討することによって、将来的には前立腺癌に対する治療および発症抑制につながることが期待される。
|
Causes of Carryover |
研究を進めていくうえで必要に応じて研究費を執行したため、当初の見込み額と執行金額が異なった。
|