2018 Fiscal Year Research-status Report
mRNAプロセッシングによる相同組換修復維持機構の解明と卵巣癌治療への応用
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18K16759
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
谷川 道洋 東京大学, 医学部附属病院, 助教 (70706944)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2020-03-31
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Keywords | 卵巣癌 / スプライシング / DNA損傷修復 / 相同組換修復 / BRCA1 |
Outline of Annual Research Achievements |
卵巣癌の治療標的である相同組換修復機構に対する新規の候補因子を探索するために、siRNA libraryをベースとした網羅的ゲノムスクリーニングを行い、DNA損傷修復因子RAD51のIRIF(irradiation induced foci)の形成能に関わる候補としてmRNAプロセシングに関連するメディエーター複合体を抽出した。候補因子のDNA損傷修復経路への寄与を検討するために、siRNAによるノックダウ ン下でpATM、CtIP、BLM、BRCA1、RPA、RAD51のDNA損傷部位への集積を蛍光免疫染色で評価し、同経路において寄与する段階 を同定した。また、DR-GFP U2OS細胞をベースとしたDNA相同組換修復能評価アッセイ(DNA homologous recombination assay)にて検討した。 本申請者は一部のスプライシング因子、メディエーター因子がBRCA1と複合体形成を示し、BRCA1の転写制御能やDNA損傷修復経路へ直接的に寄与することを示した。 BRCA1のBRCT領域は遺伝性乳がん卵巣がん症候群の発がんリスク関連する変異が集積するだけでなく、PARP阻害剤に対する感受性を示す変異の集積も報告されている。申請者は野生型BRCTと遺伝性乳がん卵巣がん患者に認められる変異BRCTのGST fusion plasmidを作成し、GST pull down法にて新規DNA損傷修復候補因子が遺伝性乳がん卵巣がん患者における変異体BRCT領域との結合が 失われていることを示した。また新規DNA修復因子の候補であるメディエーター複合体のDNA損傷修復経路への直接的寄与を示すためにLaser microirradiation法を用いて検証を行った。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
本研究では、新規因子として同定されたメディエーター因子のうち、第一段階の検証としてMED1及びMED12に着目して研究を行なった。MED1に関してはBRCA1のBRCT領域に結合することを示し、BRCA1が制御する転写活性やDNA損傷における相同組換修復経路に寄与することを明らかにした。また、MED1のDNA損傷時の動態観察を行い、DNA損傷時に損傷部にMED1が集積することを示した。本研究成果に関しては、日本産科婦人科学会、日本癌学会、米国癌学会(AACR)等複数の学会にて発表を行い、日本産科婦人科学会にて学会奨励賞の受賞を受け、現在論文投稿準備中である。MED12に関しては子宮平滑筋腫や平滑筋肉腫で高頻度で変異が報告されているが、発癌に関する詳細な機序はこれまでのところ報告は少ない。本研究では、MED12がBRCA1と複合体を形成すること、またMED12の機能失活がDNA二本鎖切断につながることを示し、現在機能失活下でDNA損傷が誘導される機序を複製ストレスに着目して解明中である。本研究の成果の一部は本年度の日本癌学会で発表予定である。 メディエーター複合体とゲノム安定性維持に関する報告はこれまで無く、本研究は20以上の複合体の2つの因子に着目した研究であるが極めて新規性が高く、説得性の高いデータを出している。その他の因子においてもDNA損傷修復、相同組換修復に関連する機序を一部明らかにしつつあり、今後はこうした因子のさらなる解明、DNA損傷修復に関するさらなる詳細な機序解明が期待される。
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Strategy for Future Research Activity |
MED1、MED12を含めたメディエーター複合体はRNA polymerase IIと連動して転写制御を行う転写共役因子であるが、比較的高頻度に各種のがんで変異が生じていることが報告されているが、ゲノム安定性機構、DNA損傷修復機構に着目して解明している報告は少ない。本研究で着目している二つの因子に関してはBRCA1と転写複合体を形成しており、BRCA1のRNA polymerase IIとの関連におけるゲノム安定性維持機構に寄与していると想定している。BRCA1/2は近年mRNA転写の副産物であるDNA:RNA hybrid, R-loopの積極的処理によりDNAを複製ストレスによる二本鎖切断誘導から守る機序が、新規の機能として報告されている。本研究ではMED1及びMED12のノックダウン下ではR-loopが誘導されるというデータを得ており、今後BRCA1と協調してR-loop処理を行う機序を明らかにすることを一つの目標とする。本研究では、BRCA1/2やRAD51等の既知の相同組換修復因子以外にも、直接的ないし間接的寄与で相同組換修復経路に寄与する因子を同定することを一つの目標にしており、こうした因子の失活による相同組換修復異常もPARP阻害剤の標的になりうることを明らかにしようとしている。具体的には、卵巣癌の細胞株において、本因子をsiRNAにてノックダウンすることによりPARP阻害剤への感受性が増強することを薬剤感受性実験で示すことを目標とする。MED12は子宮平滑筋肉腫において高頻度で変異があることが報告されており、MED12変異性平滑筋肉腫を細胞株で樹立、またPDXモデル樹立、細胞のバイオロジー解明、プラチナ製剤・PARP阻害剤等の薬剤感受性との関連を明らかにしていく。
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Causes of Carryover |
次年度使用額として計上されているものに関しては、主に実験の消耗品に使用予定である。これまでの実験の継続として、siRNA(MED1及びMED12)試薬、抗体(MED1及びMED12)試薬、siRNAやプラスミドのトランスフェクション試薬等に使用する予定である。また、本研究は既述2因子以外の転写因子及びスプライシング因子の解析も予定しており、siRNA及び抗体試薬も購入予定である。これらの他に、細胞培養の培地、血清、抗生剤も消耗品として購入する予定である。
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Research Products
(8 results)