2018 Fiscal Year Research-status Report
ラセン神経節神経幹細胞の増殖・分化制御機構の解明とその聴力再生への応用
Project/Area Number |
18K16845
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Research Institution | Kyushu University |
Principal Investigator |
安井 徹郎 九州大学, 医学研究院, 共同研究員 (60803468)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2020-03-31
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Keywords | ラセン神経節 / 神経幹細胞 / 再生医療 / 聴覚神経 / 聴力再生 |
Outline of Annual Research Achievements |
聴覚神経における神経幹細胞研究は、その由来や分化傾向など未だ不明な点が多く、一次ニューロンである蝸牛ラセン神経節細胞は、成体哺乳類においては一度傷害されると再生しないと言われてきた。これに関して申請者は、成体マウスのラセン神経節(Spiral Ganglion: SG)においても内在性神経幹細胞が静止状態で存在するとの仮説を立て、成体ラセン神経節における内在性神経幹細胞(SG-Neural Precursor Cell: SG-NPC)を同定し、このラセン神経節神経幹細胞の増殖・分化制御機構を目的とした。 申請者はNa-Kポンプ阻害剤であるウアバインを成体ICRマウスの内耳正円窓に投与し、薬物性内耳傷害モデルを作成した。ウアバイン投与1日後からSG領域でのニューロンマーカー陽性細胞は減少したが、その後に一部の細胞で増殖性マーカーの発現を一部の細胞で認め、成体マウスでも薬物性内耳傷害にともなって増殖性細胞が出現することが観察された。さらにこの増殖性細胞の分化傾向を調べたところ、その多くはグリア細胞マーカーを示したものの、一部はニューロンマーカー陽性を示した。これらの結果から、申請者はこれまで示されていなかったニューロン・グリア細胞への多分化能と増殖能を持った成体マウスSG-NPCの同定に成功した。 しかし、この増殖した新生ニューロンは聴覚神経回路を再構築するにはその細胞数は十分であるとはいえず、この成体SG-NPCのさらなる増殖能・分化能の制御が聴覚再建には必須である。そこで申請者は複数の細胞増殖・生存促進因子を組み合わせ、これを薬物性内耳傷害モデルマウスの内耳正円窓に投与することで、SG-NPCの増殖を促すことに成功した。 これらの結果は、成体哺乳類の聴覚神経再生について大きな意義を持つ結果であると考えられる。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
成体哺乳類のラセン神経節における内在性神経幹細胞が静止状態で存在する仮説の証明、およびその増殖因子への応答への検討については順調に証明できているものと思われる。 しかしながら、増殖した内在性神経幹細胞の次世代シーケンサーを用いた1細胞RNAシーケンスによる詳細な検討については標的細胞の単離についてレポーターマウスが必要であると考えらえる。併せて、標的細胞のエピジェネティクス解析の検討とともに新たな解析体系を確立する必要があり、研究全体の進捗としてはやや遅れているものと判断する。
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Strategy for Future Research Activity |
この増殖した成体SG-NPCのより高効率のニューロンへの分化誘導を目指すべく、成体SG-NPCにおいて自己増殖およびグリア細胞分化を抑制し、ニューロン分化する最初のきっかけを与えるニューロン分化促進遺伝子を同定する。ニューロン分化促進遺伝子はbHLH型転写因子の遺伝子が広く知られており(Bertrand N et al, Nat Rev Neurosci. 2002)、SGNの発生段階においてもその1つであるNeurog1が重要な役割を担う。前述の1細胞RNAシーケンスデータを経時的に評価することにより、自己増殖およびグリア分化促進遺伝子の発現が低下した細胞でのニューロン促進遺伝子発現を評価し、傷害後SG-NPCにおけるニューロン分化促進遺伝子を同定し、その発現制御によるSGN特異的ニューロン分化の促進を目指す。ニューロン分化促進遺伝子の発現制御の1つとしては細胞内在性プログラムであるエピジェネティクスを介した制御が知られており、特にbHLH型ニューロン分化促進遺伝子NeuroD1の発現にヒストンアセチル化が関与することを研究協力者は報告してきた(Hsieh J et al, PNAS 2004)。そこで、成体マウスSG-NPCにヒストン脱アセチル化酵素を用いることで、SG-NPCにおけるエピジェネティック制御によるニューロン分化促進遺伝子発現の応答性、およびSG-NPCのニューロン分化促進を検討する。 さらに、増殖した内在性神経幹細胞の由来・分化傾向、次世代シーケンサーを用いた1細胞RNAシーケンスによる詳細な検討のためには、増殖した内在性神経幹細胞の単離が必要であり、申請者は内耳増殖細胞の由来候補として神経管神経堤細胞由来細胞特異的発現遺伝子を標識するレポーターマウスの導入を予定している。
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Causes of Carryover |
1細胞RNAシーケンスデータおよびSG-NPCにおけるエピジェネティック制御によるニューロン分化促進遺伝子発現の応答性、およびSG-NPCのニューロン分化促進の検討が遂行が本年度ではできなかったため、次年度使用額が発生した。 翌年度分として請求した助成金と合わせて、増殖した内在性神経幹細胞の由来・分化傾向、次世代シーケンサーを用いた1細胞RNAシーケンスによる詳細な検討を行い、さらに内耳増殖細胞の由来候補として神経管神経堤細胞由来細胞特異的発現遺伝子を標識するレポーターマウスの導入・交配および実験を予定している。
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