2018 Fiscal Year Research-status Report
TRPV1,TRPA1制御における難治性角膜穿孔疾患の新規治療法の開発
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18K16931
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Research Institution | Wakayama Medical University |
Principal Investigator |
二出川 裕香 和歌山県立医科大学, 医学部, 学内助教 (50727807)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | 角膜実質 / 創傷治癒 / TRPチャンネル |
Outline of Annual Research Achievements |
角膜では外傷後の治癒過程での線維・瘢痕化は透明性と形状異常を惹起し視機能を低下させる。速やかな創傷治癒による炎症軽減と線維瘢痕化抑制が透明性と形状の維持に必須であるが、一方で治癒後の強度維持も担保される必要がある。TRPV1とTRPA1は感覚神経終末や角膜上皮、実質細胞などに共発現しているイオンチャンネル受容体で、所属の研究からこれらの角膜上皮創傷治癒や実質での炎症制御への関与の一端が報告された。それでも角膜実質の線維・瘢痕化でのTRPV1・A1シグナルの役割は充分検討されたとは言えない。申請者はTRPV1の角膜切開後の治癒での役割を報告したが、本申請ではTRPA1欠失マウス、TRPA1・V1ダブル欠失マウスおよび野生型マウスに角膜全層切開を作成し、治癒過程での線維・瘢痕化レベル総合的に評価する。同シグナルの調節による創傷治癒での適切な程度の線維・瘢痕化の実現を目指し、臨床現場での角膜創傷治癒の新規戦略の提唱を目的とする。 TRPV1-ノックアウト(KO)マウスを用いて、角膜実質切開創の創傷治癒(癒合)に及ぼすTRPV1の役割を検討した。角膜全層切開モデルの同KOマウス角膜では、角膜実質の癒合治癒が遅延していた。また免疫組織学的にはKOマウス角膜で筋線維芽細胞の出現が抑制され、治癒過程で活性型TGFb1がKOマウス角膜で遅延して発現していた。TRPV1KOマウス角膜では、角膜実質治癒過程でのTGFb1発現の抑制により、筋線維芽細胞やコラーゲンの発現が抑制されることが考えられ、TRPV1は角膜実質での創傷治癒促進・線維瘢痕化に関わる因子である可能性が示唆された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
TRPイオンチャンネル受容体の角膜実質創傷治癒への関与の報告は世界的にも今後の研究が期待される分野である。その中でプロトタイプのTRPV1・A1シグナルの制御による角膜実質の線維・瘢痕化の調節についての研究は報告が不十分である。TRPV1とA1は同じ神経終末に共発現し、協調して働いているが、並列関係にあるか、上流下流の関係にあるのかは不明であり、TRPA1欠失マウスやTRPV1欠失マウスだけでなく、TRPA1・V1ダブル欠失マウスで両遺伝子をノックアウトした場合、治癒遅延の程度が変化しないか、さらに悪化するかの結果によって、両因子の関係性の解明を目指す。 本申請では、以下の2点が課題を包括する目標である。(1)TRPV1またはA1シグナルとTGFb/Smadシグナルのクロストークの解明を軸とした角膜実質創傷治癒の細胞生物学的な解明と、(2)臨床現場での角膜創傷治癒の制御を想定した場合として、同シグナルの調節による創傷治癒での適切な程度の線維・瘢痕化の実現を目指し、視機能維持に重要な透明治癒、乱視予防、および組織強度の維持の要件を満たす角膜実質の創傷治癒の実現の為の新規戦略の提唱を目的とする。 TRPV1KOマウス角膜では、角膜実質治癒過程でのTGFb1発現の抑制により、筋線維芽細胞やコラーゲンの発現が抑制されることが考えられ、TRPV1は角膜実質での創傷治癒促進・線維瘢痕化に関わる因子である可能性が示唆され、今後の難治性角膜穿孔疾患の新規治療法につながると考えられた。 TRPA1遺伝子欠失マウスを用いた、角膜実質切開創の創傷治癒(癒合)過程におけるTRPA1の役割の検討について現在進行中である。
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Strategy for Future Research Activity |
まず、TRPA1欠失マウスで、TRPV1欠失マウスでの研究に準じた検討を行う。 具体的には、TRPA1欠失マウスで角膜全層切開後の摘出角膜のパラフィン切片でHE染色にて角膜実質の治癒具合を比較し統計処理を行い、a平滑筋アクチン (aSMA、筋線維芽細胞のマーカー)、ミエロペルオキシダーゼ(MPO、好中球マーカー)、F4/80(マクロファージマーカー)、炎症性サイトカイン(TNFa、IL-6、TGFb1)、MAPキナーゼなどのシグナル伝達系(ERK、JNK、p38、NFκBのリン酸化)、フィブロネクチンなどの発現も免疫染色法、Western blot法を用い検討し、炎症細胞浸潤を評価する。また、上記の因子のmRNAの発現レベルについては角膜のみを摘出しRNAを抽出(Sigma社キット)後に所属に設置されているApplied Biosystem社TaqMan real-time RT-PCRで検討する。real-time RT-PCRでは、炎症性遺伝子発現、aSMA、collagen Ia1、F4/80、MPOを内因性GAPDH mRNA発現をもとにApplied Biosystem社ΔΔCt 法ソフトウエアで解析し、Tukey-Kramerテストで統計処理を行う。 その後TRPA1・V1ダブル欠失マウスの作成と角膜創傷治癒研究をすすめる。 A1・V1ダブル欠失マウスの交配・繁殖をおこない、(欠失マウスのバックグランドはC57BL/6マウスである。) 上記と同様の方法で角膜全層切開マウスモデルの角膜創傷治癒研究を進める。
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Causes of Carryover |
本年度は免疫染色に使用する抗体や解析に必要な薬品等が施設内にあり、新規の購入分が当初の計画より少なかった。 次年度は本年度使用しなかった分、使用量の増加が見込まれるので、本年度の未使用額を充てたい。
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