2019 Fiscal Year Research-status Report
末梢毛細血管開存率の向上は移植脂肪組織容量の維持に貢献するか?
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18K16980
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Research Institution | Tokyo Medical and Dental University |
Principal Investigator |
田中 顕太郎 東京医科歯科大学, 大学院医歯学総合研究科, 教授 (20569503)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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Keywords | 組織移植 / マイクロサージャリー / 脂肪移植 / 容量変化 / マイクロフォーカスX線CT / 毛細血管密度 / 血管ストレス / 血管内薬剤充填 |
Outline of Annual Research Achievements |
初年度に引き続き以下の研究を行った。脂肪組織移植モデルの作成:Zucker肥満ラットは皮下脂肪組織が豊富で大きな脂肪弁を挙上することができるので、画像での観察の点でも変化率の観察の点でも優れた実験種である。移植組織の栄養血管への操作:移植する脂肪組織内の毛細血管へのアクセスは、組織の栄養血管である。この血管茎に対して虚血や鬱血など、組織容量を減少させるストレスを付加した。また血管にカニューレを挿入して、血管閉塞を予防する手技(組織毛細血管内への生理食塩水、抗凝固薬、血栓溶解剤の充填)、血管閉塞を促進する手技(末梢血管収縮薬の投与)を付加した。Micro focus X線CTを用いた術後移植組織容量の計測:生体での経時的変化を観察するため適切な全身麻酔下にmicro focus X線CT装置を用いて術後の経時的な体積測定を行った。 移植脂肪組織の長期経過観察の過程で、ラットの自傷行為により移植組織が損傷、喪失する事象が起こり、研究推進の遅滞の原因となることが分かった。そのため従来より用いていた下腹部脂肪弁以外の動物モデルの開発に時間を要した。その結果、以下の知見を得た。 ①下腹部脂肪弁:栄養血管→浅下腹壁動脈。栄養血管の太さ→31G(0.27±0.02mm)針で穿刺可能。脂肪組織量→脂肪組織量は豊富。手術手技→栄養血管同定、脂肪弁挙上は容易。脂肪弁挙上後の術野展開も広く血管操作も容易。 ②胸部脂肪弁:栄養血管→外側胸動脈。栄養血管の太さ→浅下壁動脈と同等。脂肪組織量→脂肪組織は豊富で、下腹部脂肪弁と同等量。手術手技→栄養血管の同定はやや複雑。脂肪弁挙上は容易。術野展開は広い。 ③背部脂肪弁:栄養血管→胸背動脈。栄養血管の太さ→浅下腹壁動脈より細い。脂肪組織量→下腹部、胸部脂肪弁よりも脂肪組織量は多い。手術手技→栄養血管の同定、脂肪弁の挙上はやや複雑。術野展開も悪く血管操作もやや困難。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
長期経過観察の際の事象(ラットの自傷行為による移植組織の損傷による脱落例の増加)により、少ない侵襲でより効率的な研究を推進することが困難であった。そのため使用する動物実験モデルを再考する必要があり、進捗がやや遅れる結果となった。 また新型コロナウィルス感染の影響で本学の研究体制が停止する期間が数ヶ月間あり、現在でも本研究の実施は中止を余儀なくされている。
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Strategy for Future Research Activity |
当初の実験計画通り、具体的に種々の薬剤による負荷を試みる。 移植脂肪容量を維持するために有効と思われる負荷:組織中の毛細血管開存率を向上させれば術後容量が維持できるという仮説を検証する。組織中の毛細血管を開存させる手段として、血管内腔を生理食塩水で満たす方法が最も原始的である。まずはその効果を検証する。脂肪弁を挙上した後に栄養動脈に生理食塩水を注入する。栄養静脈にまで生理食塩水が還流されたことを確認して血管をクランプする。一定時間の負荷を与えたのちに血流を再開し、術後の体積変化をコントロール群と比較する。続いてより積極的に血管開存に働くことが予想され、かつ臨床応用が可能な薬剤を生理食塩水に加えて投与する。抗凝固薬(ヘパリン、ワーファリンなど)、血栓溶解剤 (ウロキナーゼなど)、抗血小板薬(バイアスピリンなど)の使用を予定している。 移植脂肪容量を減少させる作用を持つと考えられる負荷:実際の医療現場で使用される頻度が高く移植組織の容量を減ずる作用を有すると思われる薬剤の投与を行う。長時間で高侵襲な手術では術中の体循環(血圧)を維持するために末梢血管収縮薬を使用する頻度が高い。これが移植組織の血流や術後容量の維持に影響するかを評価する。 移植組織中の毛細血管密度の評価:ラットの移植組織中の毛細血管密度を免疫組織学的に測定する。12週間の容量測定が終了したラットから移植脂肪組織の検体を採取し、血管茎からみて近位,中間位,遠位それぞれから組織切片を作成する。脂肪細胞をペリリピンで、毛細血管をイソレクチンで染色することにより1視野内の脂肪細胞数と毛細血管数を測定し毛細血管密度を算出する。この毛細血管密度と移植脂肪組織の体積変化率の相関を検討する。
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Causes of Carryover |
研究の進捗状況がやや遅れているため、今年度に使用する計画であった、実験用動物(滅菌飼料を含む)や研究試薬などの消耗品費、機器のレンタル料(学内施設使用料)などを次年度に繰り越して使用することとなった。
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