2018 Fiscal Year Research-status Report
カプサイシンによる味覚修飾;軸索反射放出ペプチドの甘味受容経路に与える影響
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18K17016
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Research Institution | Kyushu University |
Principal Investigator |
岩田 周介 九州大学, 五感応用デバイス研究開発センター, 学術研究員 (60780062)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2020-03-31
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Keywords | 味覚 / グルコーストランスポーター / アドレノメデュリン |
Outline of Annual Research Achievements |
唐辛子の辛味成分カプサイシン(CAP)は、TRPV-1を刺激することが報告されている。我々は、CAPが糖類に対するマウス味覚神経応答を増強する可能性を見出した。特にこの増強は、近年発見された糖輸送体SGLT-1を介して生じることが示唆された。しかし、その分子機序の解明には未だ至っていない。仮にこのCAPによる甘味修飾はTRPV-1を介して生じるとすると、甘味受容細胞に発現するTRPV-1活性化による直接的な効果、あるいは三叉神経末端のTRPV-1活性化に起因する軸索反射で分泌されたペプチドを介した味細胞への間接的な影響に起因することが予想された。そこで、マウス味蕾を回収し、神経ペプチド受容体の発現を調べた。この結果、少なくともカルチトニン遺伝子関連ペプチド (CGRP)、およびアドレノメデュリン (AM)の受容体が発現していることを見出した。CGRPは甘味受容細胞を含む味蕾II型味細胞では CGRP刺激によるCa応答や味神経への情報伝達に必要なATP分泌が生じないこと(Huang AY, Wu SY. 2015)が報告されている。一方で、AMは腸内皮細胞においてSGLT-1 発現量の増加を生じる(Fernandez de Arcaya I et al. 2005)が、味覚受容機構へのAMの関与は現在に至るまで報告されていない。そこで、このAMに注目し、野生型マウスに静脈内投与後、鼓索神経応答に変化が生じるかを調べた。その結果、単糖や蔗糖で応答の増大が認められた。人工甘味料や他の味質では応答の変化は認められず、同様の結果は甘味受容体構成分子T1R3の遺伝子欠損マウスでも得られた。さらにこれらの効果は、AM受容体阻害薬AM22-52前処理により消失することが分かった。現時点までの結果から、CAPによる甘味応答の増強作用に、AMが関与していることが示唆された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
神経ペプチド受容体のマウス味蕾での発現を調べるため、茸状乳頭、および有郭乳頭を回収し、RT-PCRを行なった。その結果、CGRP受容体構成分子であるreceptor activity-modifying protein (RAMP)1、AM受容体構成分子RAMP2、そして両受容体に共通する分子であるcalcitonin receptor-like receptor (CRLR)が発現していることが明らかになった。次に、野生型マウスにAMを静脈内投与し、鼓索神経応答解析を行った結果、単糖および蔗糖で味神経応答の増大が認められた。この効果は、同様に甘味物質である人工甘味料SC45647や、他の味質[塩味; NaCl(アミロライド依存性)、KCl(アミロライド非依存性)、苦味;キニーネ塩酸塩、酸味;HCl、うま味;グルタミン酸カリウム(MPG)]では認められなかった。これらの効果は、AM受容体阻害薬AM22-52の事前投与により消失した。以上の結果から、AMによる甘味応答の増強作用は、単糖や蔗糖を含む糖類から人工甘味料まで広く受容するT1R依存性甘味受容経路ではなく、人工甘味料を細胞内に取り込むことができない糖輸送体によるT1R非依存性の甘味受容経路を介して生じていることが予想された。甘味受容体構成分子T1R3遺伝子欠損マウスにAM投与を行った結果、単糖、蔗糖で増強が認められた。この効果は、野生型マウス同様、AM22-52により消失した。併せて考えると、AMによる甘味応答の増強作用は、T1R非依存性の甘味受容経路を介して生じていることが示唆された。
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Strategy for Future Research Activity |
先述したように、AMによる甘味応答の増強は糖輸送体を介して生じていることが予想された。当研究室では、糖に10mM NaClを混合することにより、甘味受容細胞での発現が報告されているSGLT-1を介した甘味応答の増強が生じることを見出している(未発表)。そこで、野生型マウス、およびT1R3遺伝子欠損マウスを用い、糖+10mM NaCl混合溶液に対する、AM投与による影響を調べる。応答に変化が認められた場合は、AM22-52、さらにSGLT-1の阻害薬であるフロリジン処理が応答の変化に与える影響を検証する。さらに、各種緑色蛍光蛋白質遺伝子導入マウス(GFPマウス) [Ggustducin-GFP;TRPM5-GFP(II型味細胞:甘・苦・うま味受容細胞マーカー)、T1R3-GFP(甘・うま味受容細胞マーカー)、 GAD67-GFP(III型味細胞:酸味受容細胞マーカー)]を用い、TRPV-1や神経ペプチド受容体の各種味細胞における発現様式を調べる。また、GFP発現細胞を指標に各種味細胞を回収し、 single cell RT-PCR法を用い神経ペプチド受容体の発現を検索する。同時に、AM投与により、SGLT-1発現量に変化が生じるかqRT-PCRを用いて検証する。実際に甘味受容細胞で糖取り込み量の変化が生じるかに関しては、蛍光標識グルコース2-NBDGを用いることにより、AM投与による蛍光強度の変化を調べる。増大が認められた場合は、さらにフロリジン処理による影響を検証する。また、同様の手法を用い、CGRPによる味応答への影響に関しても調べる。
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Research Products
(5 results)