2018 Fiscal Year Research-status Report
光遺伝学的手法による島皮質から三叉神経脊髄路核尾側亜核への投射経路の機能解明
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18K17019
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Research Institution | Nihon University |
Principal Investigator |
中谷 有香 日本大学, 歯学部, 専修研究員 (60781391)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2020-03-31
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Keywords | 島皮質 / 三叉神経脊髄路核尾側亜核 / 光遺伝学的手法 / シナプス伝達 |
Outline of Annual Research Achievements |
口腔顔面領域の侵害情報は,三叉神経脊髄路核尾側亜核(Sp5C)のⅠ層およびⅡ層に入力する。一方で,味覚や内臓感覚に加えて痛覚の情報処理を行う島皮質からSp5Cに投射するグルタミン酸作動性の興奮性ニューロンの存在も明らかにされているが,その機能については不明な点が多い。本研究では,「島皮質からSp5Cへの下行性投射の制御による顔面口腔領域の急性および慢性痛に対する新しい除痛法の確立」を最終的な目標に定め,チャネルロドプシン2(ChR2)を用いたSp5Cにおける島皮質ニューロンからの投射の役割とSp5Cにおけるニューロンの膜特性の分類とシナプス伝達特性を検討することを計画した。 昨年度,Sp5CのⅠ層およびⅡ層におけるニューロンについて興奮性ニューロンか抑制性ニューロンかを同定し,光遺伝学的手法を用いて島皮質ニューロンのSp5Cへのシナプス伝達様式を解析した。動物には,抑制性ニューロンが緑色蛍光タンパクVenusで標識された遺伝子改変ラット(VGAT-Venusラット)を用いた。アデノ随伴ウイルスをベクターとして用いて,蛍光タンパクであるmcherryを付与したChR2を島皮質ニューロンに発現させた。4 - 5週後に延髄の急性脳スライスを作製し,Sp5C第Ⅰ/Ⅱ層のニューロンからホールセル・パッチクランプ記録を行った。Sp5Cにおける興奮性および抑制性ニューロンから光刺激により誘発される興奮性シナプス後電流(EPSC)を記録した。誘発電流を確認後,テトロドトキシンを潅流投与したところEPSCは消失した。さらに,テトロドトキシンとともに4-aminopyridine (4AP) を投与すると再度EPSCが記録された。以上より,島皮質ニューロンはSp5Cの興奮性および抑制性ニューロンどちらにも単シナプスを形成し,脱分極させることが明らかとなった。平成31年度は最大4本の記録電極によるホールセル・パッチクランプ法にてSp5Cの局所回路の伝達特性を解明する。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
我々は,抑制性ニューロンが緑色蛍光タンパクVenusで標識された遺伝子改変ラット(VGAT-Venusラット)に,蛍光タンパクであるmcherryを付与したChR2 をアデノ随伴ウイルスをベクターとして島皮質ニューロンに発現させた。数週間後,同動物から急性脳スライス標本を作製し,ホールセルパッチ記録と光学的手法を組み合わせることで島皮質ニューロンからの下行性投射を直接スライス状で刺激した。その結果,Sp5Cの興奮性および抑制性ニューロンどちらにも直接シナプスを形成していることが明らかになった。さらに,島皮質ニューロンがSp5Cに存在する投射ニューロンとシナプスを形成しているかを明らかにするために,Sp5Cから上行性に投射する主要な神経核の一つである腕傍核(PBN)にcholera toxin subunit B(CTB)を注入し,PBNに投射するSp5Cニューロンの細胞体を逆行性に蛍光標識し,同定することでSp5Cの投射ニューロンに対する島皮質の下行性投射の影響を解析した。その結果,光刺激で生じるEPSCの振幅は,抑制性ニューロンと差がないことが明らかになった。 島皮質ニューロンは抑制性および興奮性ニューロンにも同様にシナプス形成していることから,島皮質ニューロンによる抑制性ニューロンの興奮が強力に周囲の興奮性ニューロンを抑制する可能性も考えられる。そこで,Sp5Cにおける抑制性ニューロンから興奮性ニューロンへの抑制性シナプス伝達の特性を明らかにしつつある。Sp5Cを含む急性脳スライス標本Venusラットから作製し,Sp5C内のI層およびⅡ層におけるVenus陽性ならびに陰性ニューロンから同時にホールセル記録を行ったところ,Venus陽性ニューロンの活動電流の発生にもかかわらず,Venus陰性ニューロン(興奮性ニューロン)に生じるIPSCは高い確率でfailureを起こすことが明らかになりつつある。すなわち,Sp5C抑制性ニューロンは,周囲の興奮性ニューロンを強力に抑制することはないと考えられる。
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Strategy for Future Research Activity |
今後はSp5Cの局所神経回路を構築するシナプスの伝達特性に明らかにすることに焦点を当てて研究を進める。すなわち, Sp5Cを含む急性脳スライス標本Venusラットから作製し,Sp5C内のI層およびⅡ層におけるVenus陽性ならびに陰性ニューロンから記録し,単一シナプス後電流を記録,解析する。脱分極性ならびに過分極性電流パルスによる発火特性・膜応答特性の違いからそれぞれのニューロンのタイプ(regular spiking, late spiking, burst spiking, low-threshold spikeなど)を同定し,興奮性・抑制性のニューロンのタイプとシナプス後電流の関連を検討する。パッチ電極に入れる内液には,塩化物イオンの平衡電位を-15 mVに設計したものを使用することで,当該ニューロンがシナプス前ニューロンに相当してもシナプス後ニューロンに相当しても,IPSCを記録できるように工夫する。さらに,2回以上の短い刺激時間間隔の脱分極性パルスによって惹起されるシナプス応答の振幅によって算出されるpaired-pulse ratioによりシナプス伝達の短期可塑性を推定し,各シナプスにおけるシナプス伝達効率を明らかにする。そして昨年度得られた結果とあわせて,Sp5Cの局所神経回路の解明ならびに島皮質からの下行性出力がおよぼすSp5Cの興奮性出力応答の影響について考察する。
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Causes of Carryover |
予定していた国際学会に参加しなかったことや物品費を想定より安価に購入できたため差額が生じた。次年度使用額と平成31年度助成金を合わせて,人件費および実験方法に主にパッチクランプ法および光学的手法を用いるため,それに関する試薬や消耗品費,さらに情報収集のためにthe 11th Congress of the European Pain Federationへの参加にかかる旅費として使用予定のため申請した。
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