2019 Fiscal Year Research-status Report
加齢に伴う象牙質のう蝕耐性獲得メカニズムの解明と歯科治療への応用
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18K17047
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Research Institution | Osaka University |
Principal Investigator |
松田 祐輔 大阪大学, 歯学部附属病院, 医員 (40808507)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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Keywords | う蝕 / 糖化 / 象牙質 |
Outline of Annual Research Achievements |
若年性のう蝕の進行・発生には遺伝的要因や環境的要因との関連が多く報告されている。一方で高齢者のう蝕の進行は遅く、慢性的に進むことが多い。高齢者のう蝕の進行についての報告には歯周病や全身疾患、生活習慣との関連を示すものが多い。しかし、加齢に伴う蝕進行の変化を象牙質のコラーゲン基質における糖化修飾に着目した研究は少ない。加齢に伴う象牙質の形態学的な変化としてヒドロキシアパタイトの密度の変化(石灰化亢進)や歯髄腔・象牙細管の狭窄が報告されている。さらに近年では、象牙質基質コラーゲンは加齢に伴い糖化が進行し、コラーゲン分子間に架橋構造を形成し、糖化最終産物AGEsを蓄積すると報告されている。また、加齢に伴うAGEsの沈着が象牙質の靱性を低下させ、歯の破折を起こしやすくしていることや、う蝕罹患象牙質に特異的なAGEsの沈着が見られ、う蝕の進行に影響を与えているという報告を行った。しかし、う蝕象牙質内の基質にどのような変化が起こっているかを詳細に明らかにした報告はない。また、象牙質における糖化を質量分析、ELISA法および免疫染色にて詳細に分析した報告はなく、現在進めている研究において、生体硬組織の中で極めて石灰化度の高い組織が加齢やう蝕になった際にどのような変化が起こるかを詳細に調べることができるようになると考えられる。そこで、本研究では象牙質の加齢変化がう蝕の進行にどのように影響し、AGEsの沈着がう蝕部位に局在しているか?という問いを解明するため研究を進めている。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
象牙質内の微小領域におけるAGEsの蓄積量をう蝕罹患及び若年者と高齢者から採取、定量し比較をおこなった。この際に、微量の象牙質からコラーゲンを抽出分解し、抽出物はウエスタンブロット法で表層から深層までのう蝕領域ごとのAGEsの比較し、アミノ酸レベルまで分解後、ELISA、高速液体クロマトグラフィー(HPLC)を利用しAGEsの定量化を行った。ELISA法、HPLCともに高齢者およびう蝕領域においてAGESの一種であるペントシジンの有意な上昇が認められた。今回用いた象牙質コラーゲンの抽出法について、う蝕理象牙質と健全象牙質から同一大の微小区画を切り取る必要があり手作業では限界があるため今後は、レーザーマイクロダイセクションによるサンプリングを検討している。また、象牙質の構成元素の分析として、若年者と高齢者、および健全とう蝕罹患象牙質に含まれる元素(炭素、酸素、カルシウム、リンなど)の組成解析を行った。これには未脱灰の象牙質を使用し、電界放電型走査型電子顕微鏡とエネルギー分散型X線元素分析装置(EDS検出器)を用いて分析を行ったが現時点では差は認められるものの分解能に限界があり手法的な検討が必要と思われる。質量分析装置を用いた分析においては、イオン化条件を検討し、う蝕疾患の程度におけるカルボキシメチルリジンとペントシジンまたはそれ以外のAGEsの量と分布を検討するためにより詳細な分析条件を検討しているところである。
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Strategy for Future Research Activity |
象牙質のみでは年齢による比較はできるが、全身疾患の有無や嗜好品、遺伝等の要因により、条件をそろえた比較は難しい。さらに詳細な分析のため、ラットを用いた実験も並行して行う。若年ラット(4週齢)と高齢ラット(50週齢以上)を用い、それぞれを2群に分け一方に抗生剤を添加した餌を与え口腔常在菌叢を抑制し、抗生剤投与中止24時間後よりS.mutansを口腔内に接種しう蝕を引き起こす手法を用いられないかを検討する。もう一方には通常の餌を与えコントロールとする。う蝕罹患を確認後抜歯、う蝕罹患象牙質と健全象牙質、若年ラットと高齢ラットでう蝕の進行度の比較検討を行うとともに酸・酵素に対する耐性の獲得状況について評価する。同時に臨床により得られたヒト抜去歯からも同様の物質検出や分析を行い、AGEsの分光的検出方法やコラーゲン基質への修飾を利用して架橋形成による耐酵素性、耐酸性の付与を目的としたう蝕予防剤の開発などに応用法の検討を行う予定である。分析としては、免疫染色や質量分析を用いたAGEsの局在の変化をより詳細に検討しようと考えている。
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Causes of Carryover |
後半における学会参加の延期と実験の試行回数が変わったため使用残高が生じた。残額は次年度において同様の実験の試行に使用する。
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Research Products
(2 results)