2019 Fiscal Year Research-status Report
ポリフェノール光酸化反応を応用した殺菌消毒法の確立:より安全な補綴治療を目指して
Project/Area Number |
18K17108
|
Research Institution | Tohoku University |
Principal Investigator |
倉内 美智子 東北大学, 歯学研究科, 大学院非常勤講師 (00757263)
|
Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2021-03-31
|
Keywords | ポリフェノール / 水酸化ラジカル / 細菌芽胞 / 殺菌消毒 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は,薬剤耐性菌,真菌やエンベロープを持たないウイルス(中水準消毒薬対象),および細菌芽胞(高水準消毒薬対象)に対するポリフェノール光照射殺菌法の殺菌効果・不活化の検証と作用メカニズムの解明を行い,補綴治療過程における新しい殺菌消毒処理方法を提案することを目的として実施している. 2019年度は,枯草菌(Bacillus subtilis)およびセレウス菌(Bacillus cereus)を用いて,細菌芽胞を作製した.BHI寒天培地で前培養を行った後に,P. Schaefferらにより1965年に報告されている芽胞形成培地を使用し,細菌芽胞を形成させた.培養期間中,24時間ごとに,位相差顕微鏡での観察,およびWirtz染色法を用いた光学顕微鏡での観察を行い,芽胞形成率が90%以上になるまで培養を継続した.BHI寒天培地と比較して,芽胞形成培地では効率的に芽胞が形成された.特に,B. cereusではおよそ3日間の培養により90%以上の細菌が芽胞になることを確認した. 次に,得られたB. cereusの細菌芽胞に対して,殺菌試験を行った.本研究の目的であるポリフェノール光酸化反応による殺菌作用の評価に先立ち,その殺菌作用機序の主体である水酸化ラジカルをより効率的に生成する過酸化水素光分解殺菌法(3%過酸化水素に波長400 nmのLEDを照射して得られる水酸化ラジカルを利用した殺菌法)を用いて殺菌効果を検証した.結果として,栄養型細菌,芽胞ともに,照射時間依存的な殺菌効果を確認できた.しかしながら,栄養型細菌では3分間処理で4-log以上の生菌数の減少を認めたのに対し,芽胞では5分間処理で2-log程度の生菌数減少であった.このことから,細菌芽胞は栄養型細菌と比較して過酸化水素光分解殺菌法に抵抗を示すが,ある程度効果を占めることが示唆された.今後,LEDの波長や照射時間を変えた試験も実施し,さらに詳細なデータを取得する予定である.
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
細菌芽胞の形成条件の確認,方法を確立した.また得られた細菌芽胞を用いた殺菌試験を行うことで,当初の計画通り,高水準消毒薬との比較を行っており,全体として現在までの進捗状況はおおむね順調であると言える.しかしながらこれまで確認した殺菌効果は過酸化水素光分解殺菌法による予備的な結果であり,ポリフェノール光照射殺菌法での検証を行うには至っておらず,未達である.
|
Strategy for Future Research Activity |
2020年度は引き続き,真菌(Candida albicans, Aspergillus fumigatus)を用いた殺菌試験や,エンベロープを持たないウイルス(Feline calicivirus)を用いた不活化試験を行う.いずれに対しても,まずは過酸化水素光分解殺菌法を用いた予備試験を行い,水酸化ラジカルの殺菌効果を評価する.その後,ポリフェノール光照射殺菌法を用いた試験を行う予定である. また,これまでの研究結果から,細菌芽胞を殺菌することは可能であるが,他の細菌よりも,水酸化ラジカルに対して抵抗性を示すことが分かった.そこで,そのメカニズムを解明するために,殺菌試験後の細菌芽胞の形態変化を,電子顕微鏡を用いて観察することも検討している.
|
Causes of Carryover |
(理由) 細菌芽胞に対して,ポリフェノール光酸化反応を用いた殺菌効果の検討に先立ち,より効率的な水酸化ラジカル生成が期待される過酸化水素光分解殺菌法を用いて予備試験を行っている.予備試験においてデータ収集に時間がかかっており,ポリフェノールを用いた本試験を行えておらず,次年度使用額が生じた. (使用計画) 2020年度に必要な実験機器や試薬,消耗品の購入に充てる予定である.
|