2018 Fiscal Year Research-status Report
半導体レーザーを用いた新たな癌治療法開発とアブスコパル効果の検討
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18K17222
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Research Institution | Nagoya University |
Principal Investigator |
山口 聡 名古屋大学, 医学部附属病院, 助教 (70778670)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2020-03-31
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Keywords | 半導体レーザー / アブスコパル効果 |
Outline of Annual Research Achievements |
はじめにヌードマウス、ヒト扁平上皮癌細胞株を用いた皮下腫瘍モデルを作製し、腫瘍に対する半導体レーザーの効果を検討した。レーザー照射群ではコントロール群よりも腫瘍の増大が優位に抑制されることが明らかになった。組織学的に、照射群では腫瘍は線維性の組織に包まれるように縮小していた。レーザー照射により腫瘍細胞のアポトーシスが亢進することも明らかになった。次に野生型マウス、マウス扁平上皮癌細胞株を用いた皮下腫瘍モデルを作製し、腫瘍に対する半導体レーザーの効果を検討した。照射群ではコントロール群よりも腫瘍の増大が優位に抑制されたが、単回の照射では再増大をきたすことが明らかとなり、腫瘍を完全に消失させるためには複数回の照射が必要であると考えられた。さらに、局所(原発巣)に対する半導体レーザー照射が転移巣に与える影響(アブスコパル効果)を検討した。上記の野生型マウスとマウス扁平上皮癌細胞株を用いて皮下腫瘍+肺転移モデルの作製を試みたが、腫瘍細胞の肺への生着率が低く、安定したモデルとして使用し難いと判断した。代替案として、右側背部に皮下腫瘍を形成したのちに、左側背部皮下へ腫瘍細胞を接種するモデルを作製し、遠隔転移を模したモデルとして使用することにした。右側の腫瘍に半導体レーザーを照射すると、左側に接種した腫瘍が生着しない、あるいは消失する傾向にあることが明らかになった。 半導体レーザーの照射は、照射された腫瘍だけでなく、直接照射されていない部位の腫瘍においても、腫瘍の形成・増大を抑制する効果をもつ可能性が示唆された。これにより遠隔転移への治療効果あるいは遠隔転移を予防する効果が期待できる。これまで遠隔転移を有する癌患者に行われてきた化学療法を中心とした治療とは全く違うアプローチであり、画期的な治療法となる可能性がある。次年度は効果をもたらすメカニズムを腫瘍免疫学的に検証する。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
はじめに皮下腫瘍モデルを作成し半導体レーザーの効果を確認した。ヌードマウスとヒト扁平上皮癌細胞株、野生型マウスとマウス扁平上皮癌細胞株を使用し、半導体レーザー照射後の腫瘍サイズ、組織学的観察(アポトーシス、免疫染色)を評価し、腫瘍に対する効果が明らかになった。ここまでの成果は国内の学会で公開することができた。次いで遠隔転移に対する効果を検証するにあたり、当初は皮下腫瘍+肺転移モデルを作製し検証をする予定であったが、肺転移の形成は安定感に欠け、今後実験に使用するのは困難と判断した。代替案として離れた部位に2つの皮下腫瘍を接種し一方を原発巣、もう一方を転移巣と見立てたモデルを使用することにした。得られたデータから照射された腫瘍だけでなく転移巣に対する効果をもつ可能性が示唆された。以上は予定通り平成30年度内に終えることができ、おおむね順調に進捗しているといえる。次年度は治療効果のメカニズムを腫瘍免疫学的な観点から検証していく予定であり、得られたデータから英語論文での公開を目標としている。
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Strategy for Future Research Activity |
次年度も2つの皮下腫瘍を用いた動物モデルを使用する。ひとつを原発巣、もうひとつを転移巣と見立て、一方にのみ半導体レーザーを照射する。原発巣に照射した場合の転移巣における効果を検証する。具体的には、免疫担当細胞(マクロファージ、樹状細胞、リンパ球)について蛍光免疫染色法で組織学的に評価する。また転移巣での遺伝子発現をリアルタイムPCR法で定量的に評価する。レーザー照射をした原発巣としていない転移巣での免疫担当細胞の違いを蛍光免疫染色法およびフローサイトメトリーで評価する。 in vitroでは半導体レーザーを照射したマウスの脾臓より採取したリンパ球を扁平上皮癌細胞株と共培養しその生存率、死細胞数、アポトーシスなどを評価し半導体レーザーで誘導された免疫担当細胞の抗腫瘍性を明らかにする。
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Causes of Carryover |
半導体レーザー照射装置、温度コントローラーの調整、メンテナンス費用が想定よりもかからなかったため。照射プローブの固定具、マウスの固定具は本学実験動物部門より借用することで新調する必要がなくなったため。次年度には蛍光免疫染色、リアルタイムPCR、フローサイトメトリーといった比較的高価な試薬を必要とする実験が控えているため、本年度の残額はそれらに使用する。
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