2020 Fiscal Year Research-status Report
不妊患者のプライバシーと子の出自を知る権利の在り方―真実告知体制の構築―
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18K17340
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Research Institution | Hyogo Medical University |
Principal Investigator |
入澤 仁美 兵庫医科大学, 医学部, 非常勤講師 (30788477)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | 生殖補助医療(ART) / 出自を知る権利 / 配偶子提供(DC) / 告知 / 血縁主義 / プライベートドナー / 個人間精子提供 |
Outline of Annual Research Achievements |
2020年度の研究は新型コロナ感染対策により、非対面形式のインタビュー調査の拡大、オンライン研究会の開催と学会発表が中心となった。 第7回釧路生命倫理フォーラム(2020年7月)では、RTD『血縁を重視する家族形成における倫理的課題の検討』の企画者及び話題提供者を務め、DC(第三者からの配偶子(精子・卵子)提供)で子を授かった家族の告知ケースを報告した。総合討論では「血縁は重要なのか」、「生殖医療の利用も『権利』に含まれるのか」等の議論を行った。 第46回日本保健医療社会学会大会(同年9月)においては、個人発表にてDC児に対する幼少期からの告知の重要性を訴えるとともに、企画RTD『現代社会における生殖の意思決定の多様な在り方―生殖補助医療を利用した家族の実現を通じて―』の企画者を務めた。本RTDには話題提供者に卵子提供を利用した当事者や精子バンクのディレクターも登壇したことから、総合討論では「今後のDCの在り方」を中心に議論が進んだ。 本年度はコロナ禍で海外のDCを求める不妊夫婦の渡航規制やドナーのキャンセルが相次ぎ、SNSを利用した個人間精子提供を視野に入れる人が散見されたが、この点については、ドナーのリクルートが目標数より多く実現したため、個人間精子提供の実態やクライアントのニーズの傾向と変化を調査することができた。第32回日本生命倫理学会年次大会(同年12月)の公募シンポジウム『生殖補助医療を利用した多様な家族形成においての倫理的課題の検討-医療者、レシピエント、ドナーの声を通じて-』では企画者と話題提供者を務め、個人の精子ドナーの多くは「出自を知る権利」の重要性を認識した上で、DC児との交流に前向きであることを報告した。また「生殖補助医療の在り方を考える超党派の議員連盟」第6回総会(2021年2月)の話題提供者も担当し、個人間提供が抱える倫理問題についての報告も行った。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
4: Progress in research has been delayed.
Reason
本年度はインタビュー調査のデータの集計を終わらせ、告知に関する挙児希望者向けの一般的なパンフレットを作成する予定であったが、新型コロナ感染予防対策の延長の関係で対面形態を熱望する人の聞き取りが出来ず、彼らは研究内容に重要な知見を与えてくれる存在だったことからも、本調査を終えることが出来なかった。また2020年12月に成立した「生殖補助医療の提供等及びこれにより出生した子の親子関係に関する民法の特例に関する法律」(ART特例法)により、不妊夫婦がDCを利用した場合の親子関係が明確になったため、今後は国内のDCがAIDに限定されず、体外受精へのステップアップや卵子提供も可能になる可能性が出てきた。 以上の状況から、パンフレットの前提事実及び背景に重大な変化が生じることが懸念されたため、本年度はインタビュー調査の対象の拡大及び回答収集に方針を変更し、より多くの当事者の「現在の」生の声の収集に努め、既に聞き取りを終えている対象者に考えが変わっていないかを確認することにより、現実に沿ったパンフレットの完成を目指している。 また本年度は新型コロナ感染予防対策により予定していたシンポジウムも開催できなかったが、2020年11月以降、DCに関心を寄せる人が参加できるオンライン研究会を定期的に開催することによって、研究成果の発信及び共有を行い、今後の研究に対する意見交換を行った。 予定していた韓国・台湾でのフィールド調査及びシンポジウムの開催も、コロナ禍の県外移動及び海外渡航の自粛により無期限延期のままであるが、今後はオンラインで可能な範囲への計画の見直しを視野に入れるが、遠距離移動及び多人数の会合が可能になった際には速やかに準備が再開できるよう、研究協力者と密に連絡を取りあっている。
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Strategy for Future Research Activity |
DCを検討する、あるいはDCを利用した人を対象とする自助グループの運営者と密に連絡を取り、セミナーの講師や話題提供の機会を通じて、参加者や研究者に対してのリクルートを継続している。新型コロナの終息が予測できないため、インタビュー調査の方法はZOOMなどのオンライン通話を中心にする予定であるが、今後、首都圏への移動の自粛要請及び人との接触制限が解除された場合には、速やかに対面形式のインタビュー希望者の聞き取りを行う。インタビュー調査は8月頃を目途にデータの集計に移行し、9月以降は不妊患者を対象にしたDCと告知についてのパンフレットの作成に取り掛かる予定である。 本年度の学会発表や論文投稿はインタビュー調査を質的に分析したものが中心になったが、サンプル数も増えてきたため、来年度は医療者、不妊治療経験者、ドナー、DC児、法律実務家、研究者の考えの違いなどを量的な分析も含めて論文化する予定である。今後の学会発表としては、第47回日本保健医療社会学会大会(2021年5月)において、企画演題「コロナ禍における生殖の意思決定の多様な在り方―生殖医療におけるリプロダクティブ・ライツ、セクシュアル・ライツの保障を考える―」(RTD)が採択されており、第8回釧路生命倫理フォーラム(同年8月)RTDのオーガナイズ依頼も受けている。その他にも、2021年12 月の第33回日本生命倫理学会年次大会で公募シンポジウムの演題申請を行う予定で、2021年度末には研究協力者をパネリストとしたシンポジウムの開催も予定している。 海外の調査については、台湾での病院と大学を拠点としたフィールド調査を行いたいと考えているが、それが無理ならば、研究協力者に聞き取りを行うことによって、「出自を知る権利」をめぐる国の対応などについての知見を得るつもりである。
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Causes of Carryover |
コロナ禍の長期化により、2020年度の学会や研究会はオンライン化し、対面インタビューやシンポジウムの予定も延期になったため、予定していた交通費及び謝金がほぼ全て残額に計上された。現地開催でしかできない対面議論や人脈獲得のメリットもあるので、次年度中には市民セミナーとシンポジウムが現地開催できることを願っているが、コロナ禍が収束しない場合には、シンポジウム等はオンライン開催にし、その代わりに講演内容を文字化した冊子を作成して配布する予算に充てようと思っている。 2020年度には台湾及び韓国でのフィールド調査を行う予定であったが、海外渡航も自粛となったため旅費も使用しなかった。万一現地調査が今後も不可能な場合は、書面を利用してのアンケート調査の経費や情報提供の謝礼に旅費相当額を充てる。 また本年度は不妊患者向けにDCと告知についてのパンフレットを作成する予定だったが、ART特例法によりパンフレットの前提事実が1年以内に変化する可能性が高く、「出自を知る権利」の法規定化の議論も超党派議連を中心に活発化した状況に鑑みると、実用的なパンフレットの完成を目指すためにも研究期間ギリギリまで調査を行った後に、パンフレット作成に取り組む。本年度は海外ジャーナルの発行も新型コロナ感染拡大の影響を受けたため、日本語論文しか投稿できかった。今後は海外のジャーナルの投稿も予定している。
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Research Products
(5 results)