2018 Fiscal Year Research-status Report
ケミカルバイオロジーによるコーヒー成分の大腸癌予防メカニズムの解明
Project/Area Number |
18K17355
|
Research Institution | Kyoto Prefectural University of Medicine |
Principal Investigator |
渡邉 元樹 京都府立医科大学, 医学(系)研究科(研究院), 講師 (40723581)
|
Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2020-03-31
|
Keywords | がん予防 / ケミカルバイオロジー / コーヒー酸 / 分子標的予防 |
Outline of Annual Research Achievements |
本邦における大腸癌罹患率・死亡率の漸増を受け、効果的な大腸癌の化学予防法の確立が喫緊の課題と叫ばれるなか、近年「コーヒーの常飲が大腸癌のリスク低下に寄与する」という疫学研究が国内外で報告され、注目されている。一方、その分子メカニズムについては十分解明されておらず、基礎的研究による裏付けが遅れを取っている状況である。本研究は、ケミカルバイオロジーの技術を用いて、コーヒーに含まれる生理活性成分の結合タンパク質を同定し、「コーヒーによる大腸癌予防メカニズム」の詳細を明らかにすることを目標としている。 まず初年度の成果として、コーヒーに含有される代表的な3つの生理活性物質クロロゲン酸、キナ酸、コーヒー酸のうち、マウスの小腸ポリープ細胞および複数のヒト大腸癌細胞に対し、クロロゲン酸とコーヒー酸が顕著なコロニー形成抑制効果を示すことを明らかにした。一方、キナ酸はいずれの細胞においても、有意な細胞増殖抑制は示さなかった。またクロロゲン酸は生体内において分解されてコーヒー酸となることから、以後の主たる解析はコーヒー酸を用いることとした。 次にケミカルバイオロジーの技術を用いて、コーヒー酸をナノ磁性ビーズに固定化することに成功した。コーヒー酸固定化ビーズと大腸癌細胞の抽出液を反応させ、コーヒー酸の結合タンパク質を精製し、これを質量分析計にて解析した結果、コーヒー酸の新規標的分子として、2種のタンパク質XとYが同定された(現時点ではXおよびYの詳細については未公表)。さらに、siRNAの技術を用いて、大腸癌細胞内において、XとYそれぞれ発現枯渇させたところ、いずれも著名なコロニー形成抑制効果を認め、いずれのタンパク質もコーヒー酸が示す抗腫瘍効果に関わっている可能性が示唆された。現在、引き続き、これらXおよびYが大腸癌内のどのような細胞増殖シグナルに影響を与えているかについて解析中である。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
おおむね初年度において計画していたin vitro実験を完了し、下記の通りの興味深い結果が得られた。 (1)マウス小腸ポリープ細胞および複数のヒト大腸癌細胞に対し、抗腫瘍効果を有する有力なコーヒー含有生理活性成分として、コーヒー酸を絞り込んだ。 (2)コーヒー酸のナノ磁性ビーズの固定化に成功した。 (3)上記のコーヒー酸固定化ビーズを用いて、大腸癌細胞内におけるコーヒー酸の新規結合タンパク質について質量分析計にて解析した結果、XとYを同定した(XとYの詳細については現時点では非公開とする)。 (4)大腸癌細胞内において、siRNAの手法を用いて、XおよびYを各々ノックダウンしたところ、いずれも著名なコロニー形成抑制作用を認めた。この結果から、コーヒー酸の抗腫瘍効果に、XおよびYのいずれか、あるいは双方が関与していることが示唆される。
|
Strategy for Future Research Activity |
現在、新規に同定しえたコーヒー酸結合タンパク質XとYが、大腸癌細胞内のどのようなシグナル伝達に関与しているのかについて解析が進行中である。並行して次年度は、コーヒー酸の大腸癌予防効果の前臨床試験として、大腸ポリープモデルマウス(Apcminマウス)を用いた概念実証実験に移行していきたいと考えている。
|