2018 Fiscal Year Research-status Report
危険ドラッグ5F-ADBの毒性解析・薬物動態とメタボローム解析によるアプローチ
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18K17413
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Research Institution | Nagoya University |
Principal Investigator |
草野 麻衣子 名古屋大学, 環境医学研究所, 特任助教 (60733574)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2020-03-31
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Keywords | 分析化学 / 薬物抽出 / 危険ドラッグ / 合成カンナビノイド / LC/Q-TOFMS |
Outline of Annual Research Achievements |
研究初年度では、新規合成カンナビノイド5F-ADB及びその主代謝物であるエステル加水分解代謝物M1について、申請者が過去に構築したヒト臓器中5F-ADB及びM1の定量分析法を改良し、分析バリデーション(検出下限、定量下限、日内・日間変動等の評価)を行った。特に、臓器中には質量分析時に問題となる脂質などの夾雑物が多く存在するため、脂質除去能力の高い「QuEChERS-STQ法」を前処理として用いて臓器中5F-ADB及びM1の抽出法をさらに改良した。改良した前処理法を用いて抽出効率の評価を行い、十分な抽出効率が得られることが確認された。 5F-ADBはカルボキシルエステラーゼ(CES)、特にCES1によって加水分解されることから、CES1の発現が異なる臓器を対象としてヒト臓器中5F-ADB及びM1の定量分析を行った。定量分析の結果、5F-ADBについて、ヒトにおけるCES1の発現が異なる臓器間での代謝との相関を明らかにした。CES1が多く存在する肝臓・肺においては5F-ADBは速やかに加水分解されることから、これらの臓器中の未変化体濃度は極めて低く、反対にM1濃度は高いことが確認された。また、CES1の発現が低い臓器(大脳・脂肪組織など)においては5F-ADBは代謝されにくいことに加えて5F-ADBの脂溶性が高いため蓄積されやすいことから、未変化体は容易に検出することが可能であった。未変化体濃度はM1濃度に比べて高く、CES1の発現が高い臓器とは対照的な結果が得られた。 現在はマウス投与実験を開始し、in vivo実験による5F-ADBの表現型変化の評価や薬物動態について現在調べている。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
初年度の主たる目的はおおむね達成できた。ヒト臓器中5F-ADB及びM1の定量分析を行った。その際に、脂肪組織のような脂質が多い臓器からの5F-ADB及びM1の抽出法について条件検討を行い、前処理法を最適化した。具体的には、精製ステップでより効果的に脂質除去を行うため、固相カートリッジSmart-SPE(アイスティサイエンス)を用いた。既存の残留農薬一斉分析法STQ法を一部改正し、2段階の固相抽出ステップを1段階に減らすことで抽出液量を約半量まで減らし、窒素乾固時間を短縮した。これにより、脂質除去能力の高い「QuEChERS-STQ法」を前処理として用いて脂肪組織中5F-ADB及びM1を定量した。定量分析には内部標準法を用いた。定量用の内部標準にはそれぞれに適した合成カンナビノイドの重水素体を用いた。構築した前処理法を用いた5F-ADB及びM1の回収率は各臓器において概ね50~80%であった。また、すべての対象臓器についての分析バリデーションの結果においても、確度(20%以内)・精度(20%以下)と良好な値を示した。 以前定量を行った血液及び、CES1の発現が高い肝臓・肺中の5F-ADB及びM1の定量値と併せて、今回定量分析対象としたCES1の発現が低い心臓・大脳・脂肪組織中の定量値は、大脳及び脂肪組織中の5F-ADB未変化体濃度は肺中に比べ、約3倍の濃度で検出された。CES1がほぼ発現していない大脳では未変化体の定量値が一番高く、M1定量値は対象とした臓器中で一番低かった。定量分析の結果、5F-ADBについて、ヒトにおけるCES1の発現が異なる臓器間での代謝との相関を明らかにした。
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Strategy for Future Research Activity |
上記で構築したQuEChERS-STQ法による臓器中5F-ADB及びM1の抽出法とLC-Q/TOFMSによる定量分析法について、初年度では剖検試料より採取した臓器を分析対象としたが、今後はマウス投与実験を行い同様に分析バリデーションを実施し本法の有用性および再現性をさらに評価する。 さらに、5F-ADBの血中未変化体濃度が極めて低値である理由を追及するため、5F-ADB未変化体を投与する際には、同時にCES特異的阻害剤Benzilを投与し、5F-ADBからM1への加水分解を阻害する。 さらに、次年度の主たる目的である5F-ADBの毒性評価については、5F-ADBおよびM1をそれぞれ単独でマウスに投与し、5F-ADBの急性毒性が未変化体によるものなのかM1によるものなのかを明らかにする。また、5F-ADB投与マウスの大脳・肝臓においては、内因性代謝物の抽出を行い、GC-MS/MSによる分析を行ない、メタボローム解析を行う。
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