2020 Fiscal Year Research-status Report
移行期における慢性期の精神疾患を抱える人々が経験するケアに関する現象学的研究
Project/Area Number |
18K17497
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Research Institution | Hyogo University of Health Sciences |
Principal Investigator |
石田 絵美子 兵庫医療大学, 看護学部, 講師 (50759058)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | 精神障害者 / 精神症状 / 経験 / 現象学 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究の目的は、1)慢性期の精神疾患を抱える人々が、各々の生活場所である病院や地域において、看護ケアを如何に経験しているのかを明らかにすること、2)そのような看護ケアを受ける経験が、彼らの日常生活を如何に成り立たせているのかを記述的に探究すること、である。 2020年度は、入退院を繰り返す患者の「自己評価が低い」という特性に注目してインタビュー調査のデータを現象学的アプローチによって分析した。その結果、患者の「自己評価の低さ」は、元々の性格や発症前の体験に加えて、病状が落ち着く回復過程において自己の状態を客観的に観察したり、同じ病気の他患者を見たりする中で更新されていることが明らかとなった。そこでは、患者は精神症状や特性を自己の一部と感じるほどに病いと一体化していながらも、他方では、世間に見立てた自己によって、自らの過去やこだわりを非難していた。このようにして患者は、病気である自己を受容したり非難したりする両義性の中で、自らの行為を意味づけし、社会の中で活躍した経験を保持し、時には退院や服薬を拒否しながら日々を過ごしていることが明らかとなった。以上のことから、患者にとって、精神症状や特性などは病気によるものと認識しながらも、自らの実感としても経験され、身体の一部のような存在となっていた。それらは時に、不思議な感覚や、日常生活を困難にするものである一方で、語ることのできないほどの辛い過去の代わりとなって現在の患者を支えるものであると考えられる。こうした分析結果を踏まえて、精神障害者に対する看護支援の在り方を考える際に、患者視点に立脚することの重要性を指摘した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
2020年度は、これまでと同じ研究参加者へのインタビュー調査を継続して実施すると同時に、新たな病棟でのフィールド調査と患者や看護師へのインタビュー調査を実施する予定であった。しかし、コロナ感染症の影響により病院での調査を自粛せざるを得ない状況となり、予定していた調査を実施することができなかった。こうした研究の進捗状況を総じてみると、本研究は、当初の研究計画と比べると遅れ気味であると評価できる。
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Strategy for Future Research Activity |
1)2021年度は2020年度実施できなかった地域での調査に着手するために、調査依頼や事前打ち合わせを行い、事前調査を経てデータ収集を実施していく。具体的には、これまで調査依頼をしてきた病院のグループホームに居住している、あるいはデイケアへ通う精神疾患を持つ人々の生活状況を参加観察して、インタビューを実施していく予定である。さらに、彼らを取り巻く様々な支援者、例えば精神保健福祉士や訪問看護師、グループホームの世話人やデイケアのスタッフなどにもインタビューを実施して、多様な視点から精神疾患を抱える人々の生活を詳細に分析していきたいと考えている。 2)2019年度に実施した精神科病棟で得られたデータの分析を継続する。その分析によって生じた疑問等にそって、引き続き、2020年度に依頼した同じ研究参加者に対するインタビュー調査も実施していく。そのことにより、患者たちの入院生活をより詳細により深く分析していくことが可能になると考える。 3)2021年度は本研究の最終年度となるため、これまでの病棟での調査に今年度実施する地域での調査のデータも加えて、全体のとりまとめを行う。
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Causes of Carryover |
2020年度はコロナ感染症の流行により、予定していた調査が実施できなかった。2021年度は、2020年度に予定していた調査にかかわる諸費(打ち合わせやインタビューのための交通費、テープ起こしの依頼費など)の支出を予定している。また、投稿論文のための英文校正費、さらに当初から予定していたテープ起こし代、謝金、その他にもデータ分析のためのパソコンと印刷のためのトナー、学会参加などにかかる支出も予定している。
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