2019 Fiscal Year Research-status Report
不活動性筋痛の発生メカニズム解明と理学療法学的介入の効果検証
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18K17751
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Research Institution | Nagasaki University |
Principal Investigator |
後藤 響 長崎大学, 医歯薬学総合研究科(保健学科), 客員研究員 (90813436)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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Keywords | 不活動性筋痛 / 神経成長因子(NGF) / マクロファージ / IL-1β |
Outline of Annual Research Achievements |
これまでに,不活動に曝したラット腓腹筋に神経成長因子(NGF)受容体の阻害剤を投与すると圧痛閾値が上昇することを確認しており,不活動性筋痛の発生メカニズムの一端にはNGFの発現増加が関与していることを明らかにしてきた.しかし,その発生メカニズムに関与する分子機構の解明については未着手であった.NGFの主要な産生細胞の一つにマクロファージがあり,これは炎症型(M1)と非炎症型(M2)に大別される.前者が活性化するとIL-1βが産生され,痛覚閾値の低下が惹起されることが知られている.また,IL-1βは,M1マクロファージに作用してNGFの産生を促進するとされている.つまり,不活動性筋痛の発生メカニズムにはM1マクロファージを介した炎症性サイトカインの分子シグナリングの活性化が関与している可能性があり,今年度は,不活動に曝した骨格筋におけるマクロファージとIL-1βの動態を検索し,筋痛の発生状況との関連性を検討した.実験動物は8週齢のWistar系雄性ラット40匹で,これらを2,4週間,後肢をギプスで固定する不活動群(各10匹)と週齢を合致させるため10,12週齢まで通常飼育する対照群(各10匹)に分けた.そして,腓腹筋の圧痛閾値を経時的に評価するともに,腓腹筋を検索材料にマクロファージ(総マクロファージ,M1・M2マクロファージ)とIL-1βmRNAの動態を検索した.結果,いずれの実験期間とも総マクロファージ数,M1マクロファージ数およびIL-1βmRNA発現量は不活動群が対照群より有意に高値を示したが,M2マクロファージ数は2群間で有意差を認められなかった.以上のことから,不活動性筋痛の発生メカニズムにはNGFの発現増加に加え,M1マクロファージの集積とそれに伴うIL-1βの発現増加が関与していることが明らかとなり,これらの成果については欧文論文として紙面報告した.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
今年度は不活動性筋痛の発生メカニズムに関わる分子機構の解明を目指し,実験を進めた.その結果,不活動性筋痛の発生メカニズムには,NGFの発現増加に加え,M1マクロファージの集積とそれに伴うIL-1βの発現増加が関与していることが明らかとなった.そして,これらの結果は不活動性筋痛に関わる新規知見であることから欧文論文として紙面報告した.つまり,当初の計画以上に進展していると考えている.
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Strategy for Future Research Activity |
この2年間の研究成果として,不活動性筋痛の発生メカニズムにはNGFの発現増加とM1マクロファージの集積に伴うIL-1βの発現増加が関与することが明らかとなった.一方,不活動性筋痛の直接的な原因はギプス固定などによる骨格筋の不活動であり,理学療法戦略として最も重要なことは不活動を回避し,頻回な筋収縮運動を促すことにある.しかし,ギプス固定などの医学的処置は骨折などの治療には必須であり,臨床では不活動が余儀なくされる場面も少なくない.そのため,ギプス固定下でも行える筋収縮運動の方法を考案する必要があり,理学療法学的手段としては電気刺激療法が想定される.そこで,次年度は不活動性筋痛に対する電気刺激療法の介入効果を生物学的機序も含めて検討する動物実験を計画している.具体的には,8週齢のWistar系雄性ラット60匹を実験に供する予定で,1)通常飼育する対照群(n=10),2)右後肢を4週間ギプス固定する不活動群(n=10),3)ギプス固定の過程で腓腹筋に対する電気刺激療法を実施する電気刺激群(n=10)を設定する.なお,腓腹筋に対する電気刺激療法はラットの下腿後面に表面電極を貼付し,刺激周波数 20Hz,パルス幅200μsの通電条件で,1日10分,週5回の頻度で実施する.そして,4週間のギプス固定期間中は1週毎に腓腹筋の圧痛閾値を計測し,不活動性筋痛の発生状況を評価する.また,実験期間終了後には各ラットの腓腹筋を採取し,NGFやマクロファージ,IL-1β等の動態を検索する予定である.
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