2018 Fiscal Year Research-status Report
ストレス脆弱動物におけるストレスの少ない運動条件とその神経基盤の解明
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18K17795
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Research Institution | Health Sciences University of Hokkaido |
Principal Investigator |
井上 恒志郎 北海道医療大学, リハビリテーション科学部, 講師 (30708574)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2020-03-31
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Keywords | BALB/cマウス / トレッドミル走運動 / 乳酸閾値 / 運動強度 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究はストレス脆弱性が高いBALB/cマウスにとってストレスの少ない運動条件の解明を目指す。2018年度は「トレッドミル走運動(TR)が運動強度とは無関係にBALB/cマウスのストレス反応を惹起する」という仮説の検証を行なった(研究課題1)。健常動物では、乳酸閾値(LT)の存在が確認されており、LT未満を低強度、LT以上を高強度の運動と定義すること、高強度運動ではストレスの起点である視床下部室傍核が活性化され、副腎皮質からのコルチコステロン(Cort)分泌が促進することが報告されている(Soya ら、2007)。そこで本研究でも、LTを基準とした低強度(<LT)および高強度(>LT)のTR がBALB/cマウスの血中Cort濃度や脳神経活動に与える影響を検討することとした。 実験1「BALB/cマウスのLTの同定」:BALB/cマウスではLTの報告がないため、LTの同定を試みた。BALB/cマウスに頸静脈カニュレーション留置術を施し、漸増負荷TR中に連続採取した血中の乳酸値の変化を解析した(n=5)。Two-segmented regression analysisにより、BALB/cマウスのLTが20 m/min付近に存在することが明らかになった。 実験2「低・高強度の固定負荷TRが血中Cort濃度と脳神経活動に与える影響の検討」:頸静脈カニュレーション留置術を施したBALB/cマウスを安静群、低強度運動(<LT, 10 m/min, LIE)群、高強度運動(>LT, 30 m/min, HIE)群の3群に分けた(各群 n=9)。採血後、30分間の安静またはLIE、HIEを行い、直後および60分後に再び採血を行なった。HIE群でのみ運動直後に血中乳酸値が有意に上昇し、60分後には安静群と同レベルまで回復した。血中Cort濃度と脳神経活動の変化は現在解析中である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
当初は、頸静脈カニュレーション留置術を行わずに、運動の前と直後、60分後の3点でn=7-8程度の個体から屠殺・採血を行う予定であった。しかしながら、同一個体での連続採血を可能にし、さらにマウスの使用頭数を削減するために、カニュレーション留置術を導入して実験を行うことにした。ラットでの頸静脈カニュレーション留置術の経験はあったが、マウスでは未経験であったために方法の確立に時間を要した。また2018年9月6日の北海道胆振東部地震により、進行・計画中の実験系の一時停止または延期・中止が余儀なくされるなど、地震に伴う時間のロス等も影響して、計画より進行がやや遅れた。 計画の遅延はあったものの、頸静脈カニュレーション留置術の導入成功によって同一個体で血中乳酸値やホルモン濃度の継時的変化の検討が可能になり、実験1ではBALB/cマウスのLTがC57BL/6マウスと同様に20 m/min付近に存在することが確かめられた。これはストレスに脆弱なBALB/cマウスが一般的な動物と同等の有酸素運動能力を有することを示唆する興味深い知見である。
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Strategy for Future Research Activity |
<低・高強度の固定負荷TRがBALB/cマウスの血中Cort濃度と脳神経活動に与える影響の検討:研究課題1> 前述の通り、現在、実験2の血中乳酸値変化の検討まで終了し、解析用サンプル(血液、脳組織)の準備は完了している。そのため、今後はこれらのサンプルを用い、RIA法による血中Cort濃度の測定と、IHCによる脳各部位のc-fos(神経活動マーカー)陽性細胞数の変化検討を速やかに進めていき、TRが運動強度とは無関係にBALB/cマウスのストレス反応を惹起するかどうかを明らかにする。いずれも解析に必要な試薬、機器、プロトコルは揃っているため、速やかに実験を進めることができる。 <自発的輪回し運動(WR)がBALB/cマウスの血中Cort濃度と脳神経活動に与える影響の検討:研究課題2> 研究課題1と同様に、頸静脈カニュレーション留置術を施したBALB/cマウスを用いて、運動の有無による血中Cort濃度と脳神経活動の変化を検討し、WRがBALB/c マウスにとってストレスの少ない運動条件となるかどうかを明らかにする予定である。2018年度中にWRの導入は完了しており、解析手法は研究課題1と同様であるため、速やかに実験を進めことができる。 2019年度は以上の課題遂行を目指す。また実験が順調に進行すれば、薬理的な実験も進めていく予定である。
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Causes of Carryover |
2018年9月7-9日の第73回日本体力医学会大会で研究発表を予定していたが(登録番号:10302)、大会前日の9月6日に発生した北海道胆振東部地震のため発表と参加ができなくなった。そこで、同内容を2019年7月25-28日のNeuro2019で改めて発表することとし、それにかかる旅費として10万円程度を繰り越すことにした。
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