2019 Fiscal Year Research-status Report
ストレス脆弱動物におけるストレスの少ない運動条件とその神経基盤の解明
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18K17795
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Research Institution | Health Sciences University of Hokkaido |
Principal Investigator |
井上 恒志郎 北海道医療大学, リハビリテーション科学部, 講師 (30708574)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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Keywords | BALB/cマウス / トレッドミル走運動 / 回転ホイール運動 / コルチコステロン / 不安・うつ様行動 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、ストレス脆弱性が高いBALB/cマウスにとってストレスになりにくい運動条件とその神経基盤、および各運動条件でのトレーニングがBALB/cマウスの不安・うつ様行動に及ぼす影響を明らかにすることを目的とする。先行研究を踏まえ、BALB/cマウスにとって自発運動はストレスになりにくいが、強制運動は強度に関係なくストレスになる可能性があり、両者では不安・うつ様行動に与える影響が異なるという仮説を立てた。当該年度に遂行した実験は以下の通りである。 実験1「一過性の低・高強度トレッドミル走運動(TR)と回転ホイール運動(WR)による血中コルチコステロン(CORT, ストレス指標)濃度変化の検討」:乳酸性作業閾値(LT)を基準に、BALB/cマウスをLT未満の低強度TR、LT越えの高強度TR、また低強度TRと走行距離を揃えたWRの3群に分け、運動前後で血中CORT濃度の変化を測定した。解析の結果、低・高強度TR群では運動直後の血中CORT濃度の有意な上昇が認められ、WR群では同様の変化は認められなかった。この結果は、BALB/cマウスでは、運動強度に関わらず、TRがストレスになる可能性を示唆する。 実験2「4週間の低強度TRトレーニングに伴う不安・うつ様行動の変化の検討」:BALB/cマウスを低強度TR(実験1と同条件)と安静の2群に分け、4週間のトレーニング後にオープンフィールドテスト(OF)と高架式十字迷路(EPM)で不安様行動、テールサスペンジョンテスト(TS)でうつ様行動の変化を検討した。TR群では、EPMのオープンアーム侵入割合・滞在時間の有意な減少とTSの無動時間の有意な延長が確認された。この結果は、TRトレーニングがBALB/cマウスの不安・うつ様行動を増悪させる可能性を示唆する。 以上の成果および関連する成果を国内学会・セミナーで発表、報告した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
本研究では、BALB/cマウスのストレスを血中コルチコステロン(CORT)の変化から評価している。血中CORT濃度の変化はラジオイムアッセイ(RIA)法で測定しているが、RIAを行うための所属大学アイソトープセンターが当該年度(2019年度)をもって閉鎖されることになった。当初の計画では、実験1、2とも本年度中に血中CORT濃度や不安・うつ様行動の変化に加えて、ストレスおよび不安・うつに関わる脳領域の組織化学的な解析まで行う予定であった。しかしながら、本研究とは別の研究でもRIA法を用いた実験を計画しており、所属大学アイソトープセンターの閉鎖に伴って、急遽そちらの実験を優先的に実施する必要性が生じたため、本研究の進行に遅延が生じた。
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Strategy for Future Research Activity |
現状、概ね仮説通りの研究成果が得られているため、方向性はこのままで研究を継続していく。しかしながら、前述の通り、実験1、2とも現象の背景となるメカニズムの解析が完了していないため、今後は早急にストレスおよび不安・うつに関わる脳領域の神経活動や可塑性の変化について解析を進めていく。両実験とも免疫組織化学(IHC)による解析が主であり、実験1ではストレス調節に関わる脳領域(視床下部室傍核など)のc-fos(神経活動マーカー)陽性細胞数の変化を検討していく。一方、実験2では不安・うつ様行動の調節に関わる海馬の神経新生(BrdUやDCXなど)の変化を検討していく。両実験とも解析サンプルは取得しているため、速やかに解析を進めていく。 また異なる様式の運動がBALB/cマウスのストレスおよび不安・うつ様行動に与える影響について、今後、様々な運動の時間や期間で変化を検討していく必要がある。例えば、実験1ではTRの運動時間を30分とし、運動の前後で血中CORT濃度の変化を検討したが、運動時間を短縮させた場合やTR環境に暴露しただけの場合など、様々な運動条件で血中CORT濃度の変化を検討することで、運動のどのような要素がBALB/cマウスにとってストレスになるのかを解明していく予定である。一方、実験2では、4週間のトレーニングに伴う不安・うつ様行動の変化について、低強度TR条件でしか検討できていないため、まずは同条件のWRでの検討や様々なトレーニング期間での検討を行うことで、両運動に対するBALB/cマウスの不安・うつ様行動の変化・適応の詳細を今後明らかにしていく予定である。
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Causes of Carryover |
本学アイソトープセンターの当該年度内閉鎖が決まり、本研究で予定していたRIAによるホルモン測定に加えて、他研究のRIA測定を急遽進めなければならない状況が発生したため、本研究の進行が遅れた。本研究のRIAは終了したが、その後の組織化学的な解析が残っており、そちらの解析に必要な試薬、抗体、消耗品を購入するための金額が未執行となっており、次年度繰越となった。今後は、次年度上半期内に必要な物品を購入し、解析を進めていく予定である。
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