2018 Fiscal Year Research-status Report
Project/Area Number |
18K17891
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
岸 哲史 東京大学, 大学院教育学研究科(教育学部), 助教 (70748946)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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Keywords | 睡眠 / 非侵襲的脳刺激法 / 脳波 |
Outline of Annual Research Achievements |
睡眠は健康の基盤を成すが、その実体は、睡眠段階と呼ばれる複数の状態が遷移を繰り返す動的で複雑な現象である。本研究では、睡眠中の脳の状態遷移現象に着目した、非侵襲的脳刺激法による睡眠動態制御手法を開発することを目的とする。
2018年度の主な成果は以下の3点にまとめられる。 1)睡眠段階遷移の動的モデルを構築し、睡眠段階遷移確率と各睡眠段階の持続時間分布の関数形のみの情報から、睡眠の超日リズムの中心位置を約90分として正確に表現できることを明らかにした(Kishi et al., 2018)。構築した動的モデルは2次のマルコフ過程を採用しており、ノンレム睡眠のStage2をハブとした3つの脳内振動子の情報が組み入れられていると考えられることから、睡眠の動的制御機構の背後には3つの脳内振動子が存在する可能性が示唆された。 2)上述の結果から、ヒトの睡眠動態の制御を可能にするような非侵襲脳刺激法(刺激手法・刺激系・刺激パターン等)を複数考案し、そのうちの1つについて実験系の構築を行った。また、構築した系を用いて睡眠実験の遂行も行った。 3)睡眠動態制御手法を開発するには睡眠動態の制御機序に関する理解を深める必要がある。こうした問題意識の下、睡眠動態に異常があると考えられる睡眠時ブラキシズム患者群の睡眠動態の特徴についての検討を行った。睡眠時ブラキシズム患者は健常者とは異なる睡眠動態の特徴を有していることが明らかになった(論文投稿中)。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
まず、数理モデルを用いた研究から、睡眠動態制御手法の開発の基盤となる知見を得ることに成功した。具体的には、2次のマルコフ過程の採用により3つの脳内振動子の情報を組み入れた睡眠動態の動的モデルが、睡眠の超日リズムの中心位置を約90分として正確に表現できることを明らかにし、この成果を原著論文としてPhysiological Measurement誌に発表した。次に、得られた知見から、ヒトの睡眠動態制御手法として2つの微弱電流刺激手法及び刺激系・パターンを考案し、そのうちの1つについては実験系の構築及び睡眠実験の遂行まで行うことができた。さらに、睡眠時ブラキシズム患者の睡眠動態の特徴や慢性疲労症候群患者の睡眠動態制御に関する共同研究(国内・国外)も進展し、睡眠の動的制御機構の解明に向けた研究が多角的に進展している状況である。
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Strategy for Future Research Activity |
引き続きヒトの睡眠動態制御手法の開発に向け、実験系の構築・洗練化を行うとともに睡眠実験の遂行及びデータ解析を進める。脳波に混入した刺激電流の除去に工夫が必要とされることが想定されるため、特に睡眠脳波データの解析に注力することとする。複数の脳内振動子に着目することにより睡眠動態の制御手法も複数考案されることが期待される。睡眠実験の遂行には時間がかかる側面もあるが、睡眠の質の向上に資する、より効果的な刺激系の構築を目指し、複数の手法を並行して検討していくことを考えている。
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Causes of Carryover |
当初の予定では電気刺激装置を2台組み合わせて行う非侵襲的脳刺激を行うことを想定していたが、配分額等の問題もあり、今年度は電気刺激装置1台のみで行うことが可能な刺激系の構築を行った。次年度使用額が生じたのは主にその理由による。生じた次年度使用額については、実験補助者への謝金、新たな刺激系構築のための物品及びソフトウェア経費、論文投稿・掲載料、国際学会及び国内学会出席のための旅費等に使用する予定である。
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Research Products
(8 results)