2018 Fiscal Year Research-status Report
脳インスリンシグナルを指標とした糖尿病によるアルツハイマー病発症誘導機構の検討
Project/Area Number |
18K17954
|
Research Institution | National Center for Geriatrics and Gerontology |
Principal Investigator |
田之頭 大輔 国立研究開発法人国立長寿医療研究センター, 統合加齢神経科学研究部, 研究員 (80724575)
|
Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2021-03-31
|
Keywords | インスリンシグナル / 糖尿病 / 認知症 / アルツハイマー病 |
Outline of Annual Research Achievements |
未だ認知症の根本的な発症機序は不明であり、本質的な認知機能障害の治療薬も存在しない。近年の研究から、糖尿病が認知症の危険因子となることが示されており、糖尿病による認知症発症誘導機序の解明は、本疾患発症の根本的な分子機序解明の手がかりになると期待されている。 所属研究部の研究結果から、糖代謝調整経路の主要調節因子であるInsulin Receptor substrate 2(IRS2)の脳での欠損が、寿命の延長や老化を遅延し、神経変性疾患モデルマウスの症状を改善させる一方、認知機能障害を示す老齢マウスや2型糖尿病モデルマウスの脳IRS2シグナルが亢進することを突き止めており、糖尿病と認知機能障害を結ぶ分子経路の一つとして脳IRS2シグナルが重要な役割を果たす可能性が考えられる。 本研究は、上記の実験結果を基盤に、新規アルツハイマー病モデルAPPKIマウスを用い、糖代謝異常が認知機能および脳IRS2シグナルに与える影響についての解析から、認知症の新たな予防法・治療法の開発へと繋がる可能性について検討するものである。 2型糖尿病がAPPKIマウスの糖代謝、海馬IRS2シグナル、認知機能およびアミロイド沈着に与える影響について精査した。その結果、APPKIマウスは、野生型マウスに比べ、耐糖能が良好であり、高脂肪食付加により生じる糖代謝障害に抵抗性を示した。一方、普通食APPKIマウスや高脂肪食付加糖尿病モデルマウスに比べ、高脂肪食付加APPKI マウスでは、海馬IRS2リン酸化の亢進、および認知機能障害の増悪化が観察されたが、この時、アミロイドβの増加は見られなかった。これらの結果から、高脂肪食により誘導あるいは促進される認知機能低下および海馬IRS2のリン酸化は、耐糖能異常とは独立して惹起され、高脂肪食が脳へ与える直接的な有害作用に起因する事が示唆された。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
APP KIマウスへ高脂肪食付加を行うことで2型糖尿病を誘導する計画であったが、予想に反して中年期APP KIマウスは野生型マウスに比べ、高脂肪食抵抗性を持つという結果が得られた。一方、認知機能および海馬IRS2に関しては高脂肪食付加を行うことにより、認知機能障害の増悪化および海馬IRS2のセリンリン酸化の亢進が生じることを見出した。中年期において糖尿病が海馬IRS2リン酸化を伴ってアルツハイマー病に見られる認知機能障害を増悪化することが示された。これらの結果は国内外の学会で報告を行なうと同時に現在、論文投稿準備中であり、本課題の内容に関する研究として、おおむね順調に進展していると考える。
|
Strategy for Future Research Activity |
これまでに高脂肪食付加による糖尿病誘導が中年期に見られるAPP KIマウスの認知機能障害を増悪化することを予備データとして得ている。認知機能障害増悪化の一因としてamyloidβの発現亢進の可能性が考えられるため、今後の研究推進方策として、海馬抽出液を用いてamyloidβ40およびamyloidβ42 の濃度をELISA法で測定する。また加齢による影響が相加的に作用する可能性を検討するために、若齢マウスで同様の解析を行い、認知機能増悪化機構の全容解明を目指す。
|
Causes of Carryover |
当初の計画よりも進展があり、予想外の興味深い結果も得たため、多種の異なったタンパク質解析が必要となった。しかしながら、所属研究所には、当該の解析等を行うファシリティーが無いため、所外発注として解析を依頼する必要がある。これらの解析は高額で、平成30年度の研究費残額では注文できないため、前倒し支払請求を行い、その一部残金を繰り越した。 予算の使用計画として、1.新規認知症モデルマウスサンプルの血液および海馬組織のタンパク質解析、2.我々が注目する脳インスリン受容体基質 2(IRS2)およびそのリン酸化フォームを組み込んだヘルペスウイルスベクターを作製し、本ベクターを新規認知症モデルマウスの脳へ注入し 、認知機能の変化が見られるかについての解析、3.上記のタンパク質解析で得られた結果を基盤に、ヒットしたタンパク質とIRS2タンパク質の関連性を精査し、ヒットタンパク質を組み込んだウイルスベクターあるいは、変異マウスがすでに存在する場合は、変異マウスを入手し、ヒットタンパク質とIRS2の二重変異(上記IRS2ベクターを同時使用)が認知機能へ与える影響についての解析を予定している。
|
Research Products
(9 results)