2018 Fiscal Year Research-status Report
長寿関連因子WDR6と抗酸化ストレス物質の相互作用の解析
Project/Area Number |
18K17983
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Research Institution | Waseda University |
Principal Investigator |
大畑 佳久 早稲田大学, 人間科学学術院, 助教 (60779289)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2020-03-31
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Keywords | WDR6 / 老化 / mTOR経路 / オートファジー / 代謝 |
Outline of Annual Research Achievements |
Insulin/IGF-Iシグナルや糖・脂質代謝は、老化および老化関連疾患の発症に重要な役割を担っている。私の所属する千葉研究室は、WDR6のKOマウスにおいて、mTORC1経路の下流に存在するS6Kのリン酸化が抑制されている可能性を報告してきた。本研究では、WDR6がmTOR経路の下流にあたるオートファジー制御に関与するかについて、WDR6の発現低下が糖脂質代謝に与える影響についてWDR6をノックダウンした培養細胞を用いて解析を行った。 まず、HeLa細胞に対してsiRNAを用いてWDR6をノックダウンし、LC3タンパク質発現解析を行った結果、WDR6をノックダウンしたHeLa細胞においても、コントロールと比較してLC3-I, IIの発現がともに上昇した。さらにフラックスアッセイを行うとともに、mTORC1経路のリン酸化状態を解析したが、オートファジーを活性化したという明確な結果を得られなかった。 続いてHeLa細胞とHepG2細胞に対してWDR6をノックダウンし、リアルタイムPCRを行い、遺伝子発現解析を行った。その結果、HeLa細胞においてWDR6のKDによって糖代謝、脂質代謝、そして腫瘍抑制因子の発現が有意に低下することが示された。そしてHepG2細胞では糖新生、脂質代謝そしてDNAの修復に関わる遺伝子の発現が有意に上昇した。さらに糖代謝、脂質代謝、ミトコンドリア生合成、腫瘍抑制因子の遺伝子発現が有意に低下することが示された。 以上より、WDR6はmTORC1活性とオートファジー制御に影響を与えるとともに、糖・脂質代謝に大きな影響を与えることが示唆された。興味深いことに、WDR6の発現低下はmTORC1の活性を抑制し、LC3の発現を上昇させるが、必ずしもオートファジーの活性化を引き起こさない可能性が示唆された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
まず、HeLa細胞に対してsiRNAを用いてWDR6をノックダウンし、WesternBlotting法を用いてタンパク質発現解析を行った。その結果、WDR6をノックダウンしたHeLa細胞においても、コントロールと比較してLC3-I, IIの発現がともに上昇した。さらにオートファジーの進行度合いを確認するフラックスアッセイと飢餓応答解析を行うとともに、mTORC1経路のリン酸化状態を解析した。その結果、WDR6のノックダウンによってmTOR関連経路が抑制されていることが示されたが、明確にオートファジーを活性化したといえる結果とならなかった。 続いてHeLa細胞とHepG2細胞に対してsiRNAを用いてWDR6をノックダウンし、リアルタイムPCRを行い、遺伝子発現解析を行った。その結果、HeLa細胞においてWDR6のKDによって糖代謝に関わるG6PD、糖・脂質代謝に関わるPPARA脂質代謝に関わるMogat1とPNPLA2、腫瘍抑制因子であるp53の発現が有意に低下することが示された。そしてHepG2細胞では糖新生に関わるPCK1、脂質代謝に関わるCD36、そしてDNAの修復・細胞周期の停止に関わるp21の発現が有意に上昇した。さらに糖・脂質代謝に関わるPPAPA、脂質代謝に関わるACC1、脂質代謝に関わるMLXIPL、脂質代謝に関わるMogat1、ミトコンドリア生合成に関わるPPARGC1A、腫瘍抑制因子であるp53の発現が有意に低下することが示された。 今後の解析の準備としてmRFP-GFP-LC3を遺伝子導入したHeLa細胞を取得し、研究室での培養と順化を行っている。
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Strategy for Future Research Activity |
これまでの研究結果から、WDR6の遺伝子発現の変化が様々な遺伝子発現に対して大きな影響を与えていることが強く示唆された。そこでWDR6 KOマウスに対して、次世代シークエンサーを用いて網羅的な遺伝子発現の変化を解析することを計画している。それと同時に、WDR6がオートファジーに関して影響を与えていることが強く示唆されたことから、オートファジー関連の遺伝子を組み込んだ細胞を用いて解析を行う予定である。 次世代シーケンサーによる網羅的解析だが、通常の野生型マウスとWDR6をノックアウトしたマウス間での遺伝子発現の解析を行う予定である。これによりWDR6とmTOR経路やオートファジー経路の間に存在する経路について解析すると共に、いまだに明らかにされていないWDR6の関連経路についても解析が可能となると考えている。 続いてオートファジー関連の遺伝子を組み込んだ細胞として、オートファゴソームを形成するLC3タンパクにGFPとRFPを結合したmRFP-GFP-LC3を導入した細胞を用いた解析を予定している。このタンパクは細胞質中ではmRFPとGFPが励起して発光するが、オートファジーが起こりリソソームと結合するとpHが変化してGFPの励起が阻害されmRFPのみが励起して赤に発行するという性質を持つ。つまり細胞内の蛍光の色の割合でオートファジーの進行度合いを可視化できるということになる。この性質を利用し、mRFP-GFP-LC3を導入した通常細胞、WDR6のノックダウン細胞、WDR6を過剰発現させた細胞において蛍光顕微鏡で観測することでWDR6とオートファジーの関係性について明らかにすることができるだろう。
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