2019 Fiscal Year Research-status Report
オリーブ蝸牛束の内耳保護機能に個人差が生じるメカニズムの解明
Project/Area Number |
18K18066
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Research Institution | Chiba University |
Principal Investigator |
大塚 翔 千葉大学, フロンティア医工学センター, 特任助教 (00776049)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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Keywords | オリーブ蝸牛束反射 / 騒音性難聴 / 音響暴露 / 音楽家 |
Outline of Annual Research Achievements |
騒音性難聴のなりやすさには個人差があることが知られている.オリーブ蝸牛束(脳幹から内耳への遠心性の投射)の反応が強いほど,騒音性難聴のなりにくい(オリーブ蝸牛束反射が内耳を保護している)ということが示されている.昨年度から本年度にかけて,オリーブ蝸牛束反射による内耳保護機能の個人差が,音響暴露の履歴(音響暴露の有無,期間,頻度,及び,強度)の違いによって生じるという仮説のもとで,芸術大学の音楽学部で演奏を学ぶ学生を対象として,両者の関係を調べてきた.その結果,音響暴露レベルが比較的に高いヴァイオリン専攻の学生のオリーブ蝸牛束反射は,他楽器の専攻の学生に比べて強いということが分かった.その一方で,演奏中にヴァイオリンと同程度の強さの音に暴露される管楽器専攻の学生のオリーブ蝸牛束反射の強度は,他専攻(ピアノ,管打楽器,声楽)の学生と同程度であった.この結果は,音響特性や楽器の構え方などの強度以外の要因がオリーブ蝸牛束反射に影響を与えていることを示唆している.以上の結果は,昨年度に報告した傾向と同様である.今年度は被験者を増やし,データとしての信頼性を高めた.楽器演奏者を対象とした検討と並行して,オリーブ蝸牛束反射に個人差を生じさせる,音響暴露の履歴以外の要因を検討してきた.昨年度は,刺激音の出現タイミングに対する予期が,オリーブ蝸牛束反射に影響を与えることを明らかにした.本年度は,音の強度に関する予期がオリーブ蝸牛束反射に与える影響を調べた.その結果,強い音の出現を予期している場合には,予期していない場合と比較して,オリーブ蝸牛束反射が強く働く一方で,弱い音の出現を予期している場合のオリーブ蝸牛束反射の強度は,予期していない場合と同程度であるということが分かった.この結果は,強い音の出現に対して準備をすることで,効果的に内耳を保護するメカニズムが存在することを示唆している.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
当初の計画では,本年度,および,次年度において,(1) オリーブ蝸牛束反射の特性の詳細な評価,(2) 騒音性難聴のなりやすさを決定づけるオリーブ蝸牛束反射の特性の導出,(3) オリーブ蝸牛束反射の特性の個人差と音響暴露の履歴との関係の検討を行う予定であった.楽器演奏者を対象として,(1)と(3)に対応する実験を計画通りに遂行することができたが,(2)については,被験者募集の都合により,来年度に実験を行うこととした.その一方で,非音楽家を対象とした実験から,オリーブ蝸牛束反射に個人差が生じる要因を解明する上で有用な知見が得られた.そのため,本年度の進捗としては概ね順調と判断した.
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Strategy for Future Research Activity |
昨年度,および,本年度に確立したオリーブ蝸牛束反射の評価手法を用いて,騒音性難聴のなりやすさを決定づけるオリーブ蝸牛束反射の特性の導出を目指す.具体的には,楽器演奏者を対象として,短時間の楽器練習に伴う聴力低下の個人差を評価し,その低下量とオリーブ蝸牛束反射の諸特性の関係を調べる.並行して,予期に基づくオリーブ蝸牛束反射の能動的な制御メカニズム,および,それに個人差が生じる要因を特定することで,音響暴露の履歴とは別の観点から,内耳保護機能に個人差が生じるメカニズムの解明を目指す.
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Causes of Carryover |
実験被験者の謝金に経費を使用する予定であったが,所属研究室のメンバーを被験者として実験を行ったため,謝金が不要になった.また,オープンアクセス化費用を使用する予定であった論文の採択が遅れため,その費用を次年度に使用することとした.そのため,繰越金が生じた.また,本年度に予定より多くの研究成果が出たことから,残りの繰越金は,英文校正費,オープンアクセス化費用に使用する.
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