2018 Fiscal Year Research-status Report
高騒音環境で安全かつ正確に音声を伝えるための骨導ヘッドフォンの明瞭化
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18K18081
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Research Institution | Oshima National College of Maritime Technology |
Principal Investigator |
村上 泰樹 大島商船高等専門学校, その他部局等, 講師 (90779646)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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Keywords | 骨導音 / 聴覚モデル / 音声強調 / 聴覚マスキング |
Outline of Annual Research Achievements |
1)高騒音環境下では耳栓などの装着は義務付けられていることから、耳栓を装着した状態で騒音レベルが80と90 dBの環境で骨導ヘッドフォンから呈示された音声の書き取り試験を行った。その結果、なじみのある単語であれば、音声了解度はどちらの騒音条件でも90%を超えた。また、無意味な音声でも、70%程度であった。この結果は、高騒音騒音環境での作業において骨導ヘッドフォンが有効であることを示した。通常の作業環境では60 dBから70 dB程度の騒音が想定される。この環境では、耳栓を装着しない。そのため、耳栓を装着しない状態で60 dBと70 dBの騒音環境下で音声の書き取り試験を行ったところ、音声了解度はほぼ0 %であった。
2)項目1で得られた結果の原因を分析するために骨導音と気導音のラウドネス特性の比較を行った。気導音のラウドネス特性と比較して、1000 Hz以下の低域では骨導音のラウドネス特性の値は小さくなった。これは、低域では大きな振動レベルで刺激を与えないと骨導音の知覚が困難であることを示した。しかし、この帯域で大きな振動レベルを参加者に与えると、皮膚の振動として呈示刺激が知覚されるため、入力レベルを増幅させるだけでは音声の聴き取りやすさに寄与しないことがわかった。
3)項目2で得られた結果を説明するために聴覚末梢系のシミュレーションを行った。骨導音と気導音の間で応答パターンに変化がなかった。この結果から、耳栓を装着しない条件で骨導音が聞き取れなかった原因として、聴覚マスキングの存在が示唆される。聴覚マスキングは特に低周波数音の存在が高周波数音への知覚を妨害する原因である。骨導音は低周波数音を含んでいないことから、聴覚マスキングの影響を受けやすい。このことが耳栓を装着しない条件では骨導音を聞き取りづらくさせると結論づけた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
ま騒音環境下において骨導ヘッドフォンを通じた音声の聞取り試験を行った。その結果、超高騒音環境での作業を想定し、耳栓を装着した状態では骨導ヘッドフォンは実用上問題のない範囲で使用することが可能であることが分かった。しかし、中程度の騒音レベルでの作業を想定し、耳栓を装着しない状態では骨導ヘッドフォンから提示された音声は聞き取ることができなかった。この耳栓を装着しない状態では骨導ヘッドフォンの明瞭度を向上させる必要があることを明確にできた。 骨導ヘッドフォンの明瞭度を向上させるために、聴覚の周波数特性ともいえるラウドネス関数の推定を行った。その結果、呈示レベルを大きくすると、音声の特徴を多く含む1000 Hz以下の帯域では骨導ヘッドフォンの振動を触覚が知覚することがわかった。そのため、低い周波数帯域では呈示レベルを大きくすることが困難であることがわかった。これは明瞭度を向上させるためには、呈示レベルを大きくするだけでは不十分であり、前処理の必要性を指摘することができた。 数値シミュレーションをもちいて、これまでの実験結果の説明を試みた。その結果、実験の結果をおおむね説明できた。これより、聴覚モデルベースで骨導音声の明瞭度を向上させる基盤を構築することができた。
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Strategy for Future Research Activity |
1)耳栓を装着する高騒音環境であれば、骨導ヘッドフォンは有効であることを確認した。ただし、コミュニケーションは双方向でなければ成立しない。騒音に頑健な骨導マイクロフォンと組み合わせることで双方向での通信を実現する。耳栓を装着しない程度の騒音環境であれば、気導音の低周波数成分の影響で骨導音声の聞き取りは困難になった。これに対しては、骨導ヘッドフォンから気導音の逆位相となる刺激を呈示してアクティブノイズコントロールを行い信号対雑音比の向上をはかる。これらの研究は実験的に行うためには、多くのパラメータを決める必要がある。現在聴覚モデルを提案しているため、このモデルを基盤とした研究を行うことでパラメータの設定を自動化する。 2)耳栓の取り外しや周囲の音を聞きながらの作業が騒音環境では行われる。このような作業条件の中で骨導ヘッドフォンは常に装着した状態でいられることが大きなメリットである。本研究課題を通じて、騒音に頑健な骨導ヘッドフォンを開発し、骨導マイクロフォンと組み合わせることで、騒音の影響を受けない音声コミュニケーションが可能になる。音声コミュニケーションは安全な作業の基盤である。そのため、本研究課題を通じて、騒音環境での安全な作業の実現が可能になると考える。
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Causes of Carryover |
当初予定していたヤマハから購入するよりも安価なサイレントデザインから組立式防音室を購入することができたため、次年度使用額が生じた。次年度使用額は、国際会議への参加が決定しているので、そのために使用する計画である。
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Research Products
(4 results)