2019 Fiscal Year Research-status Report
聴覚刺激のクロスモーダル知覚による擬似触力覚の呈示
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18K18095
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Research Institution | Tokyo Polytechnic University |
Principal Investigator |
中島 武三志 東京工芸大学, 芸術学部, 助教 (60707404)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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Keywords | クロスモーダル / AR / 擬似触覚 / 聴覚刺激 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は,ヘッドマウントディスプレイ(HMD)を用いた従来の視覚刺激のみによる疑似触力覚呈示手法に対し,擬似接触音を人工的に付加することで,得られる疑似触力覚を変化させることが可能であるか検証し,得られた知見をMRコンテンツ制作へと応用することを目的としている.当該年度においては,特に手のひらで仮想物体に触れる動作に着目し,得られる疑似触力覚の量や質についての検証を行った. その結果,擬似接触音を提示すると触感は大きく感じられるが,音量による感じ方の違いは個人差が大きいことが判明した.また,擬似接触音による触感の大きさの増加率は,仮想物体の形状や動作にあまり影響しない可能性が示唆された.さらに,動作量や仮想物体の形状によっては,視覚刺激によって判断される仮想物体の強度や尖鋭性が,聴覚刺激によって変化することを示した. この結果から,得られる擬似力覚は仮想物体の形状に大きく影響を受けることが示唆された.そこで,視覚情報を遮断した状態で,聴覚刺激のみを与えることで擬似的に力覚を誘発できるか検証した.具体的には手の掌握運動に着目し,実験参加者に対し手の開閉に連動する4種類の音源(片栗粉の入った巾着,ビー玉,ペットボトル,空き缶)を聴取させた. その結果,体験者へのインタビューから,掌握する対象物から反力を受けているような,これまで報告されている擬似力覚と同様の感覚は得られないことが判明した.一方,手の開閉に連動する音を聴取しながら掌握運動を行うことで,自発的に力を込めている感覚は増加することが分かった.また,手の動きと連動した音源を変えても手に力を込めている感覚の大きさは大きく変動しなかった. 以上より,HMDを用いたMR環境下において,聴覚刺激を付加することで得られる疑似触力覚の質感をコントロールできる可能性を示し,MRコンテンツの体験向上に資する知見が得られた.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
当該年度の研究予定は,1. MR環境における聴覚刺激の重畳による擬似触覚呈示の検証,2. 聴覚刺激を用いた疑似力覚呈示における効果的な音響パラメータや客観的指標による評価,3. 聴覚刺激の重畳呈示による擬似触力覚を応用したコンテンツ制作であった. このうち1. については,「仮想物体を手のひらで触れる動作」に関して,聴覚刺激の重畳による擬似触覚の質感に対する効果を検証できた.このことに加え,研究者同士での議論の中から視覚情報を遮断した状態で,聴覚刺激のみによる疑似触力覚呈示の可能性という着想を得て,聴覚刺激単体での擬似触力覚への効果を検証できた.このため,1.については当初の計画以上に研究が進展したと言える. 2.については,擬似力覚を評価する生理指標として腕の皮膚表面における筋電位を測定し,聴覚刺激の有無による筋収縮への影響を検証するためのシステム制作および実験デザインを検討中である.当該年度末頃からの新型コロナウィルス感染拡大の影響により,2. については当初の計画に比べて遅れが生じている. 3.については「MR環境下において仮想物体を手のひらで触れる動作」をモチーフとしたコンテンツのデモ展示を行い,多くの来場者からフィードバックを得られた.また,掌握運動中に提示される音が力覚に及ぼす影響を検証する実験装置を応用したコンテンツについてもデモ展示を行い,得られる感覚について体験者から貴重な意見が得られた.このため,3. については概ね順調に進展している. 以上より,本研究は概ね順調に進展していると言える.
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Strategy for Future Research Activity |
今後の研究方針として,聴覚刺激を用いた疑似力覚呈示における効果的な音響パラメータや,客観的指標による評価を行う.しかし,現時点では新型コロナウィルス感染拡大防止の観点から,ヒトを対象とする実験や,多数の研究者や学生が参加する研究発表などのイベントが当面の間実施できないと予想される.そのため,新型コロナウィルス収束までは実験システムの改善やコンテンツ制作など,異なるアプローチで研究を進めていく予定である. 新型コロナウィルス収束の見通しが立ち次第,擬似力覚を評価する生理指標として腕の皮膚表面における筋電位を測定し,聴覚刺激の有無による筋収縮への影響を検証する.また,聴覚刺激を呈示する音響機器(ヘッドホン,スピーカ等)による差異や音量,周波数特性など,様々な音響パラメータが疑似触力覚呈示に影響を及ぼしていると考えられ,これらの影響について詳細に検討する. また,本研究の研究成果を社会・国民に発信する方法として,国際会議(ICMI, ACE)や国内研究会(エンタテインメントコンピューティング研究会)での発表や,論文(日本バーチャルリアリティ学会)への投稿を予定している。また,システムを応用したコンテンツの展示イベント(インタラクション等)への出展にも取り組む予定である。
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Causes of Carryover |
収支計画における論文掲載料が概算額であったため,わずかに差額が生じた.差額は少額のため,研究遂行時に生じる消耗品(実験装置,コピー用紙,電池等)の購入に使用する予定である.
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Research Products
(4 results)