2018 Fiscal Year Research-status Report
同位体比解析による土壌放射性セシウムのエイジングの実態解明
Project/Area Number |
18K18211
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Research Institution | National Agriculture and Food Research Organization |
Principal Investigator |
若林 正吉 国立研究開発法人農業・食品産業技術総合研究機構, 東北農業研究センター, 研究員 (80707654)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | 土壌放射性セシウム / エイジング / 同位体比 / 粘土鉱物組成 / 水田と畑 |
Outline of Annual Research Achievements |
土壌に沈着した放射性セシウムは、時間の経過とともに雲母鉱物の層間へと固定されて溶出しにくくなる。エイジングと呼ばれるこの現象の経過を解明できれば、農産物の汚染リスクの経年変化傾向を推定することができる。以前の研究では、エイジングの指標として、交換性画分の放射性セシウム量が経時的に解析されてきたが、この指標値には、土壌環境が変化した際に、エイジングとは無関係に変動するという問題がある。本研究では、この問題に対処した新たな指標として、交換性画分における、放射性セシウム(137Cs)と自然由来の安定セシウム(133Cs)との同位体比(137Cs/133Cs比)を経時的に解析し、東京電力福島原子力発電所事故により農地に沈着した放射性セシウムのエイジングの経過を明らかにする。 平成30年度は、原発事故以降複数年にわたり同一圃場において採取された土壌試料群を分析し、過去のエイジングの経過を解析した。つくば市の黒ボク土水田では、2011~2015年の間、交換性放射性セシウム量はエイジングとは無関係な変動を示した一方、交換性画分の137Cs/133Cs比は経年的に減少し、この比がエイジングの指標として利用できることが明らかになった。また、カリウム肥料無施用で栽培を続けている試験区の土壌を慣行栽培区の土壌と比較したところ、前者の場合、沈着後初期の放射性セシウムの固定化が促進された一方で、その後のエイジングの進行が部分的に阻害されたことが明らかになった。 福島県内の10地点の圃場における2013~2017年にかけての経過を分析したところ、追加施肥などによる交換性カリウムの増加に応じて、交換性放射性セシウム量はエイジングとは無関係に減少した。このうち、交換性画分の137Cs/133Cs比が経時的な低下傾向を示す圃場は3地点のみであり、それらの減衰速度は、つくばの黒ボク土水田の場合よりも早かった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究では、過去、現在および将来のエイジングの進行を解明することを目指し、以下のような解析を行っている。 1)【過去】アーカイブ土壌試料群の時系列解析 2)【現在】圃場モニタリング 3)【将来】乾湿繰り返しによりエイジングを加速化させた室内培養試験 平成30年度は、1)に関しては、2013年以前~2017年まで同一圃場から定期的に採取された試料セットを21地点分収集し、このうち、福島県下より収集した10地点分の土壌試料について、交換性画分と粘土鉱物組成の分析を行った。また、これまでの取得データが利用できたつくば市の黒ボク土水田に対しては、細密な分析を実施し、エイジングの進行速度を見積もるとともにカリウム施肥の影響を明らかにした。2)については、10地点のモニタリング圃場を選定して定期的な土壌採取を実施した。なお、モニタリング調査地については、アーカイブ土壌試料が充実している圃場や、地目間の比較が可能な水田と畑の圃場組を選定した。3)については、モニタリング圃場のうち5地点の土壌を用いて、長期的な培養処理を開始した。以上のように、おおむね当初の計画通りに進行しているが、モニタリング圃場の一部において、農家の都合により、栽培が中止されるという問題が生じ、データ解析の際に、作付けの有無という当初予定されていなかった要素を考慮する必要がある。
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Strategy for Future Research Activity |
つくば市の黒ボク土水田で得られた結果についてとりまとめ、科学雑誌上に発表する予定である。平成30年度の解析結果において、2013年以降に交換性画分の137Cs/133Cs比が経年低下した圃場が少数であったことから、過半数の圃場では、エイジングが事故後数年のうちに収束した可能性が考えられた。次年度は、当初の予定通り、2)モニタリング調査と3)乾湿繰り返しの培養試験を行い、実際にエイジングが収束に達しているかを追跡調査する。一方で、過去のエイジングにおける進行速度を評価するために、1)事故後の比較的早い時期から採取されたアーカイブ土壌の収集および分析を重点的に実施する。また、これまでの結果より、土壌中のカリウムの動態が、交換性放射性セシウム量の変化やエイジングの進行に影響することが考えられたため、カリウムの固定反応と交換性画分の放射性セシウム量および137Cs/133比との関係を解析する予定である。
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Causes of Carryover |
次年度使用額150,705円は、研究費を効率的に使用して発生した残額であり、次年度の研究費と合わせて、研究計画遂行のために使用する。
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