2018 Fiscal Year Research-status Report
光触媒による金属イオンの価数制御を導入した革新的な溶媒抽出法の創出
Project/Area Number |
18K18220
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Research Institution | Japan Atomic Energy Agency |
Principal Investigator |
杉田 剛 国立研究開発法人日本原子力研究開発機構, 原子力科学研究部門 原子力科学研究所 先端基礎研究センター, 研究職 (80772342)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2020-03-31
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Keywords | 光触媒 / 酸化還元 / 金属イオン / 溶媒抽出 |
Outline of Annual Research Achievements |
溶媒抽出法は、高容量、大量・迅速処理、および高選択性といった特性を持つことから、産業破棄物等から希少金属を回収するための有望な手法である。しかし、物理的・化学的性質の似通った金属イオンの相互分離などにおいては従来の方法では限界がある。そこで本研究では、金属イオンの価数を光触媒反応によって制御し、元素ごとの酸化・還元のされ易さや安定に存在できる価数の差異による抽出分離効率の向上を目指した。 光触媒による金属イオンの価数制御は、光触媒に関する他の分野(水の分解、有機化合物の分解など)と比較して報告例が少なく、未だ発展途上である。よって、光触媒反応と溶媒抽出の複合に先立ち、光触媒と金属イオンの反応について検討した。光源として4 W低圧水銀灯を用い、酸化チタン(TiO2)、酸化タングステン(WO3)、酸化亜鉛(ZnO)を光触媒として用いた。反応対象とする金属イオンはReとした。まず、MeOHを電子供与犠牲剤として加え、光触媒反応によるRe(VII)の還元を検討した結果、TiO2のみRe(VII)の還元反応が進行した。しかし、TiO2によって還元されたRe(VII)はTiO2表面に析出し、その後の溶媒抽出への適応は困難であった。この傾向は他の貴金属(Rh, Pd. Pt)でも確認され、光触媒表面に析出させずに金属イオンを還元するためには、新しい光触媒の開発や反応系の検討が必要であると考えられる。 次に、電子受容犠牲剤としてペルオキソ二硫酸カリウムを用い、TiO2を用いたRe(IV)の酸化について検討した。Re(IV)からRe(VII)への変化は274 nmの吸光度の減少と227 nmの吸光度の上昇によって評価した。結果、TiO2を用いることで、Re(IV)を酸化できることが確認された。反応前後のReはどちらも溶液中に存在することから、溶媒抽出法との複合が期待できる。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
耐熱用スーパーアロイの合金添加元素やガソリン製造用の改質触媒などにも用いられるReを対象とし、電子供与犠牲剤又は電子受容犠牲剤の存在下で光触媒反応を行った。光触媒としてはTiO2, WO3, ZnOを用いた。TiO2はReに対して酸化還元反応を示し、特にRe(IV)からRe(VII)への酸化において溶媒抽出法と複合が期待できることを明らかにした。一方で、Re(VII)を還元するとReがTiO2表面に析出し、回収は可能であるが溶媒抽出との複合は難しいことが示唆された。光触媒還元と溶媒抽出法の複合には、新しい光触媒の開発や反応系の検討が必要であると考えられる。WO3を光触媒として用いてRe(VII)の還元を行った場合、還元反応は進行しなかった。これはWO3の持つ還元電位がRe(VII)の還元に適さないことが原因であると考えられる。また、ZnOを用いたReの還元反応では、ZnOが溶解し、Reに対する光触媒反応は進行しなかった。これは反応に用いたRe(VII)溶液のpHが4付近であった為であると考えられる。金属イオンを対象とする際には酸性領域で反応させることが多いことから、酸性領域で溶解するZnOは不適であると予想される。 以上より、最も一般的に用いられているTiO2を用いる事で、金属イオンの酸化反応による価数制御が可能であることを見出し、研究計画時に提案した研究項目についておおよそ計画通りに研究が遂行できている。次年度は平成30年度に得られた知見を基に、溶媒抽出法との複合と、液-固-液の反応を連続的に進行可能な装置開発へと進展させる。
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Strategy for Future Research Activity |
価数の異なる金属イオンに対する抽出挙動を比較するため、PC-88A、D2EHPA、MIBKなどの市販の抽出剤を用いたRe(VI)とRe(VII)に対する抽出挙動を評価し、光触媒反応と溶媒抽出法の複合を検討する。また、液-固-液の反応を連続的に進行可能な装置開発として、液液界面に保持される光触媒の調製と、ワンパスで液-固-液反応を可能とする装置の開発を行う。
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Causes of Carryover |
新しい光触媒の合成に使用するために購入予定であった電気炉について、他の研究員が有する焼成炉の使用許可がおりたため、電気炉の購入を取りやめた。 初年度の研究を進めていく中で、使用する光触媒が有する電気化学的特性を調べることで、金属イオンに対する反応性を予測できる可能性があることに気付き、電気炉購入に充てる予定であった予算を利用して、ポテンショスタット等の電気化学測定器を購入する計画である。
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