2018 Fiscal Year Research-status Report
移民受け入れ国となったスペイン:「後発性の利益」と「地域主義」の間で
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18K18245
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
深澤 晴奈 東京大学, 大学院総合文化研究科, 助教 (90761429)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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Keywords | 移民政策 / スペイン / 地域主義 |
Outline of Annual Research Achievements |
本件研究では、ヨーロッパ地域におけるスペインの移民政策の位置付けとともに、スペイン国内の各自治州の例を取り上げながら国内の空間的な比較を含む分析を試みている。1990年代末から2000年代にかけて移民受け入れ国に転換したスペインでは、短期間に大規模な移民流入(2000年代前半)や深刻な経済危機(2008年以降)を経験した。本研究では、縦軸に移民受け入れ後発国として周辺諸国の経験を取り込んだ移民政策を実施することが可能となった「後発性の利益」を、横軸にカタルーニャ州に代表されるような「地域主義」が国政やスペイン・ナショナリズムに与えてきた状況を置き、その間で移民政策がどのように策定されてきたのかを検討している。国内政治における「地域主義」と「反ポピュリスト規範」の相関構造を探るという政治学的試みに加えて、中央政府及び地方政府における移民政策の決定者、受け入れ社会の市民社会組織や、移民による自助団体といった移民政策に携わってきたアクターに聞き取り調査をおこなう社会学的調査を行っている。これまでは、移民排斥を掲げるグループは存在するものの、国内の地域主義が国家ナショナリズムを凌駕している状況や、独裁時代の記憶や国際人権レジームの浸透から「反ポピュリスト規範」が作用して移民とは別の要素により「排除」が向いてきた傾向を分析してきた。2019年には、その移民排斥を掲げる勢力が初めて国政に参入することとなり、今後は、これまでのスペイン独自の政治的バランスを伴った移民受け入れが形成されてきた状況にどのような要素が加わったのか、その構造的な特徴を明らかにすることも研究課題となった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
2018年度中には、2019年度に始める予定であった調査の一部を開始することができた。具体的には、2019年度に開始予定であった5つの自治州の比較の事例調査について、2018年度の現地出張の際に現地の研究者及び研究機関の協力を得られる機会に恵まれ、すでに1州での調査を始めているだけではなく、さらにもう1州についても研究を進めることができた。ただ、2018年末から2019年前半にかけてのスペイン政局では、移民排斥などを掲げる極右政党が民主化以来初めて国政に参入するなど、新しい現象が目立つようになった。こうしたことから、この現象における後発性の利益や地域主義とのバランスについても探るという課題も発生した。
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Strategy for Future Research Activity |
2019年度には、引き続き各自治州の比較研究を進めるとともに、2018年度に前倒しして進めることができた調査で得られた結果を取りまとめ、スペインにおけるラテンアメリカ地域出身移民についての成果発表を行う予定である。現地滞在の機会には、一次史料のさらなる収集を行い、各自治州の移民統合政策における地域主義の要素を抽出する調査を進めたい。さらに、2019年スペイン総選挙において、移民排斥を掲げる極右政党が国政に参入することとなったため、この点にも留意しつつ研究を進めたい。 2020年度には、前年度の調査による比較要素をまとめ、地域主義やポピュリズムの視点を加えた分析を行い、研究成果の発表を行う予定である。
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