2019 Fiscal Year Research-status Report
移民受け入れ国となったスペイン:「後発性の利益」と「地域主義」の間で
Project/Area Number |
18K18245
|
Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
深澤 晴奈 東京大学, 大学院総合文化研究科, 助教 (90761429)
|
Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2021-03-31
|
Keywords | スペイン / 移民政策 / 地域主義 |
Outline of Annual Research Achievements |
2019年度は、前年度の調査をふまえ、移民の社会統合政策が地域主義の強いスペイン国内の各自治州でどのように採られてきたのか、地域主義の動向や政治がどのように推移してきたかなどについて、現地での文献調査、学会発表、インタビュー調査を行なった。 スペインは、2010年代初頭には周辺ヨーロッパ諸国と比較して移民排斥を訴える勢力が台頭していない状況にあったが、2019年前後から極右政党がにわかに得票率を伸ばし、地方議会での存在を示しつつ、国政に参入するに至った。それまでの国内政治は、国内の地域ナショナリズムが国家ナショナリズムを凌駕している状態で、それにより移民の排斥とは別の要素に「排除」が向かうような政治的バランスが見られていたが、近年のカタルーニャ州における地域主義の過熱によって、それに対抗する国家ナショナリズムが膨張し、極右勢力が存在感を増した。それに伴って、2010年代後半には極右政党による移民排斥の言説もより顕在化している状況が観察される。 数十年前まで移民流出国であったことや、移民受け入れが民主化と国際人権レジームが浸透した時期に起こったことにより、これまでスペインでは移民排斥の言説が抑制され、独自のバランスによって移民の社会統合が推進されてきた。だが、この昨今の状況から、移民排斥勢力の動向は今後の研究課題の中でより注視すべきこととなった。移民排斥の言説の拡大や抑制力となり得る内因的・外因的要素についても分析していきたい。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
2019年度は、マドリード市における史料調査やインタビュー調査とともに、近年いっそう地域主義が強まっているカタルーニャ州の状況の一端を調査することができた。9月に同州にあるバルセロナ自治大学で開催された第9回スペイン移民学会では、同大学の移民研究チームとパネルを組み、移民受け入れ後発国としてのスペインと日本の比較を試みた報告を行なった。1990年代初頭において、両国における外国人の割合は1~2%と同様だったが、およそ30年後の現在、スペインでは短期間に大規模な移民受け入れを行い外国人が12%に増加したのに対し、日本においては近年の漸増はあるものの2%程度にとどまることを提示した上で、今後外国人労働者を受け入れざるを得ず入管法改正も行われた日本で目下採られようとしている特定技能資格が、スペインにおいて1990年代に実施され失敗に終わった移民割り当て制度を想起させると示唆した。現在進行形で発生している現象を探ることによる課題も発生したが、現地の研究者と議論する機会を得たことは有意義であった。
|
Strategy for Future Research Activity |
毎年の調査を続けるなかで、移民受け入れ国となってから約30年を経たスペインの状況は確実に変化してきていることがわかる。他方で、近年のスペイン政治は安定的とは言い難く、例えば、2019年には2度の総選挙が行われた。加えて、2020年にはCOVID-19拡大が深刻化した状況にある。したがって、移民政策についての新たな政策立案や実現の機会は当面みられないであろう。ただ、現下の感染症危機に見られる/見られない移民フローは、今後の移民研究の一つの大きなテーマになるだろうと感じている。さらに、近年ヨーロッパ全体で問題とされている難民についても課題が先延ばしにされている。その中で、今年度の調査で明らかになったのは、ヨーロッパに流入する難民の多くがトルコ経由でシリアやアジア出身者と捉えられがちであるなか、スペインの難民受け入れのトップは南米ベネズエラ出身者という点であった。この点については、今後の新たな調査対象として検討しようと考えている。
|