2020 Fiscal Year Research-status Report
移民受け入れ国となったスペイン:「後発性の利益」と「地域主義」の間で
Project/Area Number |
18K18245
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Research Institution | Keio University |
Principal Investigator |
深澤 晴奈 慶應義塾大学, 商学部(日吉), 講師 (90761429)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | スペイン / 移民政策 / 地域主義 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究では、1990年代末から2000年代にかけて移民受け入れ国に転換したスペインにおいて、短期間での大規模な移民流入や深刻な経済危機を経験しているにもかかわらず、周辺諸国のような移民排斥勢力が台頭する様相が見られなかった点に着目してきた。ところが、現在は本研究を開始した数年前よりもその傾向が弱まりつつある。それまでの国内政治では、活発な国内の地域ナショナリズムが国家ナショナリズムを凌駕する状態にあり、移民に対して排除の矛先が向けられる状況が回避されていたが、2010年代末には、その地域ナショナリズム過熱に対抗しようとする国家ナショナリズムを掲げる極右ポピュリスト政党が一定の支持を得るようになった。その極右ポピュリスト政党が、移民排斥を唱えることによっても票を獲得しようとしたことで、ここ数年のうちにそうした言説が国内政治の場に登場する場面が増加した。目下の2021年マドリード自治州選挙戦においては、極右政党による移民排斥の文言がよりあからさまとなり、本来であれば我々スペイン人に付与されるべき国家予算が不法移民向けの予算として使用されている、といった言い回しが、コロナ禍等の影響による経済縮小の中で不安に陥っている人々からの支持も得るようになっている。その一方で、こうした言動はヘイトクライムであると訴えられ検察捜査の対象ともなっている。本研究においては、これまで抑制されてきた移民排斥の言説が拡大した際に、それまで積み重ねられてきた移民の社会統合政策にいかなる影響を与え得るのかについて引き続き分析していきたい。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
2020年度は、新型ウイルスの流行の影響により国外出張が不可能となったため、当初予定していたマドリード市やカタルーニャ州における資料収集やインタビュー調査を実施することができなかった。そのため、年間を通じて、インターネット上での資料収集やオンラインによるインタビュー調査を実施した。移民政策については、とくにスペインでは年間を通じて感染拡大が深刻であったため、長期的な新たな移民の社会統合政策立案などの動きは見られなかったものの、労働ビザが切れたが移動できずに不法滞在状態となってしまう移民労働者に対する特別措置や、季節労働者の移動に関する政令など、コロナ禍への短期的な対応を様々な角度から観察することができた。また、これまでの研究成果の一部については、国際学会(IUAES(国際人類学民族学会連合)大会等)で報告する機会があったが、こうした学会や他諸々の研究会にもオンラインで参加した。
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Strategy for Future Research Activity |
感染症危機によって人の移動が極力制限されている状況においては、各国の出入国管理政策だけではなく、移民を含めた/含めない社会政策の分野における国ごとの相違がより顕在化したように思われる。こうした危機下における移民政策は、今後の移民研究において一つのテーマとなるであろうし、すでに多様な学術的枠組みにおいて研究が始まっている。本研究の目的に照らし合わせるならば、コロナ禍の影響によりスペイン社会における移民認識が変化したのか、という新たな視点を持って引き続き調査に取り組みたい。今年度に現地調査が可能となれば、前年度に予定していたマドリード市やカタルーニャ州における資料収集やインタビュー調査を再開したい。その際には、新たな段階に入った移民排斥の言説が今後どのように拡大もしくは抑制されていくのかについて注視しつつ分析していきたい。
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Causes of Carryover |
2020年度は、新型ウイルスの流行の影響により国外出張が不可能となったため、当初予定していたマドリード市やカタルーニャ州における資料収集やインタビュー調査を実施することができなかった。2021年度には、繰越金を活用し昨年度計画していた現地調査を行う予定であるが、万が一国外出張が遂行できなかった場合には、オンラインでアンケート調査を実施する等の方策を考えている。
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