2021 Fiscal Year Research-status Report
移民受け入れ国となったスペイン:「後発性の利益」と「地域主義」の間で
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18K18245
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Research Institution | Keio University |
Principal Investigator |
深澤 晴奈 慶應義塾大学, 商学部(日吉), 講師 (90761429)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | スペイン / 移民政策 / 地域主義 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究では、20世紀を通じて移民送り出し国であったスペインが1990年代に移民受け入れ国に転換し、2000年代初頭には短期間に大規模な移民流入を経験した過程から、その急激な変化に移民受け入れ社会がどのように対応してきたのかを分析してきた。とりわけ、この間スペインで排外主義が台頭してこなかったのは他ヨーロッパ諸国の移民受け入れ経験を自国の移民政策に取り込むことが可能となった後発性の利益によるところが大きく、他方で、「排除」の矛先が、中央政府に対抗する地域主義(分離独立を主張する地域ナショナリズム)に向けられてきたことも関係するというのが本研究の方向性である。こうした分析のように、この20年間にわたってスペインでは周辺諸国に見られるような目立った移民排斥は見られず、スペインではなぜ排外主義が大規模化しないのかと問われる場面もみられた。しかしながら、本課題研究開始以降の2010年代末には、極右ポピュリスト政党が一定の支持を得て国政に進出することとなった。同党は主に目下国内で争点となっていた地域主義(とくにカタルーニャ主義)に対抗する反地域主義を掲げて票田を獲得していったが、同時に、自国民の富を横取りする非正規移民といった言い回しやムスリムに対する排斥の言説など、反移民を唱えることによっても支持層を拡大した。これは一見、極右反移民政党の出現とも捉えられがちだが、これもまた、まずは中央政府と地域主義の対立が顕在化した現象であると言えるだろう。本研究では、最新の動向を追いつつも、これまで積み重ねられてきた移民と受け入れ社会の社会統合政策の流れを踏まえた視点で引き続きこの現象を分析していきたい。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
2021年度は、前年度に引き続き、新型ウイルス流行の影響により国外出張が不可能となってしまった。そのため当初2020年度に予定していたマドリード州やカタルーニャ州における調査ができず、オンラインによるインタビュー調査や資料取り寄せによって研究を進めることに努めた。しかしながら、現地調査を実施できなかったことによる進捗状況の遅れは否めない。また、スペインはとくにコロナウイルス感染症による犠牲者が多く感染拡大も深刻だったこともあり、移民や人の移動に関する全般的な政策についての長期的な立案などの動きは見られなかった。他方で、感染症拡大によって人の移動や移民研究があらためて問われることにもなり、今後の研究対象が拡大するきっかけになったとも考えている。コロナ禍と移民政策については、2022年度開催予定の第10回スペイン移民学会(Congreso de Migraciones)での報告準備に向けた現地の研究者との議論を通じて、最新情報を得つつ、順次現地の様子をアップデートすることができた。また、政治的決断が膠着しているなかでも、中央政府と地域主義の対立は様々なかたちであらわになっており、今後も注視すべき問題であることに変わりはない。
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Strategy for Future Research Activity |
本課題研究は、上記のように後発性の利益の視点からスペインの移民政策を分析してきたが、まずはこうした観点からアプローチしつつも、移民政策と地域主義の問題を社会統合政策や受け入れ社会の移民認識という論点と結びつけて理解することを目標としている。さらに、受け入れ社会において移民がどのように地域主義に取り込まれ、時には利用されているのかについての分析も進めていきたい。2022年には新型ウイルスに対する各国の水際対策や国内政策が大幅に緩和されつつあり、スペインでも着々とコロナ以前のような移動が可能となってきている。2022年度は、ここ丸2年間オンラインに頼っていた調査を現地で再開できればと願っている。
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Causes of Carryover |
2021年度は、2020年度に引き続き、新型コロナウイルス感染症の影響により国外出張が不可能となり研究計画の変更を余儀なくされたため、補助事業期間の再延長を申請し、ご承認いただいた。2022年度は、繰越金を活用して、2020年度以来計画していた現地調査(主にマドリード州及びカタルーニャ州)を行う予定である。
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