2018 Fiscal Year Research-status Report
Considering Acacia plantation from marine fishery and nutirent flow -A case study in central Vietnam-
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18K18250
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Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
岡本 侑樹 京都大学, 地球環境学堂, 特定助教 (00635500)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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Keywords | アカシアプランテーション / 栄養塩 / 牡蠣養殖 / 土地利用 / 集水域 / ベトナム |
Outline of Annual Research Achievements |
東南アジアを中心とする熱帯地域では、自然林の伐採に伴うプランテーション農業の拡大に伴う植生変化、種多様性の減少が指摘されている。ベトナムにおいても、山間地域におけるアカシアの植栽が盛んに実施され、地域の人々の生業となる一方、沿岸域への影響が懸念されている。 本研究は、熱帯域の自然林やアカシア林は、①海への栄養塩供給に貢献しているのか? ②海で生産される牡蠣は、どれだけ陸域起源の栄養に依存しているのか? ③アカシアプランテーションは、「悪」なのか?の以上3つの問いに答えるべく、1)アカシア林、自然林などの陸域からの栄養塩類のフローの明示、2)湾内の牡蠣に関するフードウェブと陸性食物起源の寄与についての推定、3)湾内の一次生産、牡蠣生産量と栄養塩類の現況の理解と赤潮・貧栄養リスクの検討、4)アカシア植栽農業の生業を左右する内的・外的要因の把握を目的に、ベトナム中部An Cu湾流域において研究を実施する。 研究の方法として、1)アカシア植栽と自然林がもたらす沿岸域への栄養塩類のフローを明らかにすべく、森林、土地利用、集水域の把握、各流系の表層流(河川、小川、水路)の雨季・乾季における採水と栄養塩類の分析により、栄養塩類のフローを求めた。2)牡蠣の食性・フードウェブから見た陸域起源の栄養塩類、餌の寄与については、次年度実施する予定である。3)湾全域の一次生産および牡蠣の生産量の推定については、湾内の実測と衛星画像による解析により、牡蠣の現存量の推定を行った。次年度実施予定の一次生産量(基礎生産量)の推定より、湾全体の一次生産と牡蠣生産の関係を今後明示する予定である。4)現地住民から見たアカシア植栽農業の利点、問題点、放棄や代替案の可能性の明示については、現段階の聞き取り調査で得られたものと、補足的に実施した溶存酸素分布などから、現時点でのリスクや現況についての検討を実施した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
平成30年度は、「研究の方法」で述べた1)の項目と、3)と4)の予備調査を実施し、当初より早く、順調に研究を進めることができた。主な成果は、以下の通りである。 【アカシアプランテ―ションと自然林がもたらす沿岸域への栄養塩類のフローについて】アカシア(Acacia auriculiformisおよびMelaleuca sp.)が高密度(3,781本/ha)に植栽され、3から5年を周期とした継続的な林業が行われていた。湾に流入する河川集水域の天然・二次林、人工林それぞれの濾過サンプル水の栄養塩類(NH4, NO3, PO4)は、雨季において、乾季と比べると高い値を示したものの、各流域において低い値であり、森林構成の違いに起因した各栄養塩濃度への顕著な影響は認められなかった。このことから、施肥に起因するアカシア植林地から水域への栄養塩類負荷は大きくないことが考えられた。 【湾全域の牡蠣の生産量の推定】湾内ではマガキの仲間(Crassosteria iredalei)の養殖が行われており、実測した養殖基盤付着個体数と養殖基盤数の推定から求めた養殖漁場中の個体密度は3,613個/m2であった。加えて、衛星画像を用いて特定した養殖漁場の湾内の総面積は0.45km2であり、推定算出されたむき身生産量は約4,000 tであった。 【現在の湾内環境とリスク】湾の閉鎖度指数は9であり、その形状から考えて閉鎖性が高く、水質汚濁や富栄養化のリスクを有していることが明らかとなった。一方で、現状からはDIN/DIP比が概ね16以下であり、水域全体の栄養塩類のバランスは適度に保たれていると考えられた。調査期間中に実施した溶存酸素分布の調査においても、貧酸素水塊や赤潮の発生が認められないことも踏まえ、湾内の水産資源に悪影響を及ぼすことがない状態で、森林・水産資源の利用がなされていることが、現時点では示唆された。
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Strategy for Future Research Activity |
今年度の研究により、アカシアのプランテーションによる栄養塩の湾への流入が少ないことが明らかになったが、懸濁物の解析が途中であり、次年度は、懸濁物のサンプルについても栄養塩類を分析し、各流域の溶存態だけでなく懸濁態の栄養塩類も踏まえた評価を実施する。加えて、牡蠣の養殖、生産が盛んに行われている対象地において、牡蠣が一次生産者を適度に利用し、植物プランクトンの大量発生を抑制する働きをしていることも考えられるため、次年度は、この牡蠣をめぐるフードウェブ(各域における植物プランクトンの寄与、種組成)と一次生産量についての理解を深めるための調査、分析を実施していく。今年度の結果から、栄養塩類の流入源が森林でなく、居住区域を含む、その他の土地利用からの栄養塩流入が主と考えられたため、今後、これらについての解析を検討していく。さらに、海水交換率の推定を行うことで、湾全体における具体的な栄養塩類の供給源、寄与率を把握し、各土地利用がもたらす湾への負荷、貢献、現在のバランスについて、データを掲示していく方針である。 以上より、陸域から海域への栄養塩のフロー、そしてそれらが取り込まれ、海産物となるまでのプロセスを把握し、各流域の寄与や湾内のリスクや良好な林業・漁業の生産体系の可能性について、明示されることが今後2年の研究より期待される。
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Causes of Carryover |
1年目の研究活動において、当初予定していた事前調査渡航で、本調査と同等の現地分析と情報収集、サンプリングを実施することができたため、今年度の渡航にかかる費用を節約できたことが第一の理由である。加えて、研究が計画より早く順調に実施できたため、次年度予定していた調査地における牡蠣個体の生産量推定調査を実施できたため、今年度中の購入および試験的な利用を予定していた、光量子計(MQ-200 \81,000)やデジタル生物顕微鏡(デジタル生物顕微鏡 双眼 M-82D \92,500)、調査や各分析で使用する消耗備品(目盛り付き角型透明ボトル、マイティバイアル No. 5 19mL、プランクトン計数版)などの購入を次年度初頭にまわしたため、次年度使用額が生じた。これらを含む物品の購入と調査渡航については、次年度に予定していた渡航や物品購入に加える形で執行していく予定であり、計画より研究が順調に実施できているが故の変更、対応である。
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