2019 Fiscal Year Research-status Report
イスラーム経済の新潮流:ワクフ(寄進財産)をめぐる法学革新と代替的福祉制度の創出
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18K18251
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Research Institution | Ritsumeikan University |
Principal Investigator |
KHASHAN AMMAR 立命館大学, 立命館アジア・日本研究機構, 研究員 (70814888)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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Keywords | ワクフ(寄進財産) / イスラーム経済 / イスラーム法学 / イスラーム福祉制度 / 東南アジアの経済 / 中東 / インドネシア / マレーシア |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究の目的は、イスラーム法の典拠であるクルアーンとスンナ(預言者慣行)の解釈によって、イスラーム法の重要な一部門として歴史的に展開されてきたワクフ制度とその現代的革新について研究することにある。令和元年度は、主として次の研究活動を行った。 1.昨年度の調査では初期イスラームの社会・経済を表すデータの分析をおこない、今年度はイスラーム法学形成期に至るワクフ概念の成立・展開を史料調査・分析によって考察した。理論面から先行研究であつかわれてなかった問題点もいくつか発見し、ワクフ制度の革新の現状に沿ってその意義を検討した。 2.東南アジアのマレーシアのイスラーム経済の復興の一部として、ワクフ再活性化や代替的福祉制度の創出としてワクフの状況の考察をおこなった。特にマレーシアにおけるCorporate Waqfとしての「Waqf Annur Corporation Berhad (WANCorp)」と国際的な運動として2016年に活動を開始した Waqf World(ワクフのクラウドファンディングのプラットフォーム)を2つの研究事例を中心として調査をおこなった。マレーシアにおけるワクフ制度の新潮流の理念や実態がさらに明らかになった。 3.インドネシアのワクフの復興の特徴について、フィールド調査を実施した。文献・データ収集のほか諸大学のイスラーム経済・金融の研究者及びIndonesian Waqf Boardである「Badan Wakaf Indonesia」の実務者との面接を行い、代替的福祉制度としてのワクフの実情を調査した。インドネシアのワクフの専門家と意見の交換によれば、インドネシアにおけるCash Waqfも事例研究が進んでいる。 以上の研究活動はいずれも学会・研究会等で発表をおこない、ワークショップを開催して、日本のイスラーム経済の専門家と地域のワクフの専門家との研究集会で、有益な意見交換をすることができ、本研究のための討議をして貴重なアドバイスを得ることできた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
令和元年度の達成度について、以下の点から順調な進展と自己評価した。 1.ハナフィー法学派の学祖アブー・ハニーファ(767年没)をはじめとしてハンバル法学派の学祖アフマド・イブン・ハンバル(855年没)に至るまで、各法学派のワクフ法規定とその法源の史料を考察することが出来た。その結果、現代ワクフの復興におけるイスラーム法学の多様性及び初期イスラーム法学との関係性を考察して、いくつかの重要な論点を把握することが出来た。 2.フィールドワーク調査を通じて資料の収集が順調に進んだ。ただし、ビザや新型コロナウイルス感染拡大防止の影響でフィルドワーク調査は予定より短縮した。 3.国際ワークショップを開催し現地の専門家を日本に招聘し、研究機関とワクフの専門家との発展的な学術交流の推進を始めとして、幅広い視野におけるワクフの議論と具体的な協議を進めることが出来た。
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Strategy for Future Research Activity |
令和2年度には、主として3つの方策で本研究を進む予定である。 1.現代のイスラーム法学の革新におけるワクフを用いた代替的福祉制度の位置づけをおこなうために、さらなる伝統的な文献の調査・分析を進め、現代の法源をめぐる見解や専門家の議論に基づき代替的福祉制度として現代のワクフ制度の特徴を明らかにする。 2.今まで研究事例は東南アジアのイスラーム法学の革新を中心にしたが、今年度は中東のワクフ制度の法学革新や現状把握をおこなう予定である。そのためにフィールド調査をおこなう予定であるが、新型コロナウイルス感染拡大防止の影響で、オンラインによる調査で代替する可能性もある。 3.本課題で取り扱った各研究事例及び理論的考察の成果を学会や研究会で発表をおこない、国際学術誌に論文と研究報告を投稿する予定である。
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Causes of Carryover |
当該年度のフィールドワーク調査を通じて資料の収集が順調に進んだ。ただし、ビザや新型コロナウイルス感染拡大防止の影響でフィルドワーク調査は予定より短縮した。 次年度の研究費は、データの構築と分析に必要な文献資料の購入(書籍代)として使用予定である。及び1か月間の実施を予定しているフィールドワークのための海外旅費(航空運賃と日当宿泊費)に使用する。ただし、新型コロナウイルス感染拡大防止の影響でフィールドワークの実行が不可能になった場合は、オンライン研究会やオンラインでの面接など海外のワクフ専門家や実務者との情報交流の機会をつくり、その整備やその他データ保存用メディア・複写代など用例収集とデータ集積の作業工程にかかる費用に充てる。また研究の進展によって、成果や投稿予定論文の英文校閲や入力作業など補助作業が必要になるため、謝金に充当する予定である。
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Research Products
(7 results)