2018 Fiscal Year Research-status Report
Sanction on Businesses in Indonesia: Empirical Study on Effects of Financial Supervision on Securities Market
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18K18265
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Research Institution | Osaka University of Economics and Law |
Principal Investigator |
小西 鉄 大阪経済法科大学, 経済学部, 准教授 (60770279)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | インドネシア / 政治経済 / 証券市場 / 制裁の実効性 / 金融監督 / インナー・サークル / 不透明性 |
Outline of Annual Research Achievements |
本年度は前半に、アジア経済危機以降のインドネシアにおける証券市場の発展と金融当局の規制・監督権限について、入手済みの金融データや文献、法規制関連資料からレビューした。 インドネシア・ジャカルタでのフィールドワーク(以下FW)では、証券会社関係者、著名証券投資家や上場企業経営者へのヒアリングで、90年代以降の証券市場での金融監督の実効性の弱さに関する基礎的証言を得た。新聞記者へのヒアリングでは、証券市場におけるインナー・サークルの存在に関する具体的な情報を入手した。 同年11月のアジア政経学会秋季大会での報告では、証券市場監督関連の権限と規制を確認したうえで、証券取引での不透明性の事例において証券取引所幹部を含む利益グループの存在があったことを指摘した。そこでのフィードバックにより、海外投資家比率の高さや機関投資家の役割との関係、他国との比較研究の必要性に関する視点を得た。これらの知見を基に、2019年5月現在、論文を執筆中である。 2018年12月から翌2019年1月に実施したFWで入手した新聞記事や文献資料を基に、証券市場における具体的な不透明性や違法事例の数的・質的データの整理も行い、リスト作成作業を進めている。リスト作成の方法論において、三重野文晴・教授よりコメントをいただいた。 また、証券市場での金融当局の制裁の実効性に関する特定企業グループを事例研究として英語論文にまとめ、英文校正を行ったうえで、現在、学術誌Bulletin of Indonesian Economic Studiesに投稿中である。 さらに、同グループの当主へのヒアリングも実施し、ビジネスと政治の関係に関する証言も得た。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
以下のように、平成30年度の研究実施計画①~③を概ね達成したため。インドネシアでの証券取引所の成立から現代までの数的データを収集するとともに、文献レビューも実施し、証券市場の展開を確認した(平成30年度研究実施計画①)。証券市場の法規制における金融当局の規制・監督権限を整理し、アジア政経学会秋季大会で報告できた(同②)。これらの作業は、今後の分析を進めるうえで、金融当局のどのような点が企業への制裁の実効性を弱めているのか、あるいは実効性を担保するために何が不足しているのかを明らかにするうえで重要な基礎となる。さらに、証券取引における不透明性に関する量的・質的データ収集を進展させ、分析対象データを確保した(同②)。現地の主要新聞各社のデータベースから取得した証券市場に関連する記事データを取得には、大型の株式取引や注目企業の上場といったトピックのみならず、違法取引の摘発や金融当局の再編などのニュースも含んでおり、今後の整理・分析の対象となるデータを概ね揃えることができた。 現在、以上の議論を整理しながら論文執筆を進めている(同③)。なお、データ量が多いため、その整理に時間がかかっている。 研究実施計画の達成のほか、二つの進捗が挙げられる。 まず、インドネシアにおける特定企業グループへの制裁に関する事例研究を論文にまとめることができた(投稿中)。この事例研究での議論は、上場企業全社を対象とした一般化へ向けた議論の出発点となる。 次に、金融監督の弱さに関する基礎となる証言を得ることで、本研究の基盤を整えてきた。新聞記者や上場企業の経営者のほか、実際に金融当局より制裁を受けた投資家へのヒアリングでの証言で、銀行・証券市場を含む金融の全部門における金融当局の制裁は弱く、実効性に乏しいことを確認した。この点は、企業への制裁の実効性に関する議論の一般化を裏付けるものである。
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Strategy for Future Research Activity |
本研究の今後の展開に必要な分析視角とそのためのデータの種類と収集方法に関して、以下の通りである。 a)政治コネクションを持つ上場企業に対する金融当局の制裁の傾向とその実効性、およびその要因に関する分析を行う。そのために、①各上場企業の資金調達構造に関して、FWにより各上場企業の財務諸表を収集するとともに、各上場企業関係者へのヒアリングを実施し、各社の資金調達における証券市場の位置づけについて、所有者や投資家ごと(ファミリー系、国内・国外投資家、機関投資家など)に分析する。②また、各上場企業の政治コネクションの実態に関して、全上場企業の所有者や投資家のバックグラウンドを記事や文献等から調査してリスト化し、政治家や官僚、特定ファミリーとの結びつきを洗い出す。 b)金融当局による制裁が他の取引や他企業のガバナンスにどのような影響をもったかについての分析を実施する。そのために、上場企業に対する金融当局による制裁、およびそれへの政治介入に関して、関係者へのヒアリングや記事収集を実施する。これら①~③のそれぞれの成果を論文にまとめ、投稿する。 c)インドネシア政治経済や金融を専門とする国内・海外の著名研究家を訪問し、企業への制裁の実効性を中心に、金融部門における政治経済に関する議論を行い、より深い知見を得る。 d)他の新興国や東南アジア諸国との比較研究へ向けた準備も検討する。 以上のデータや知見を基に、企業に対する制裁の実効性について、インドネシア研究懇話会、東南アジア学会などの国内学会やInternational Conference on Indonesian Economy and Developmentなどの国際学会で発表して、フィードバックを得る。インドネシアに対する企業への制裁の実効性に関する書籍を執筆する。
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Causes of Carryover |
①物品購入費と②人件費・謝金での支出額が当初予定より少なかったためと分析する。①物品購入費について、これまでの調査研究により新聞雑誌記事データや上場企業の財務報告書などの資料、関連文献はすでに入手済みであったため、予算より少ない支出となった。②同様に、人件費・謝金に関しても、すでにアクセス可能なデータや人脈を保有しているため、謝金を活用する機会はなかった。 こうした支出額の減少により、業者を利用した英文校正が可能となったが、その支出を計上してもあまりある額が生じた。一方で、2回の海外渡航と1回の学会報告のための出張により旅費が当初予算配分を超えた支出となっている。 2019年度は2回の海外渡航と1回の国内学会報告のほか、国内研究者への訪問のための旅費、または国際学会での報告も計画している。そのための渡航費に組み込む予定である。
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Research Products
(2 results)