2019 Fiscal Year Research-status Report
Study on Promotion of Migration and Settlement from the Viewpoint of Value Co-Creation
Project/Area Number |
18K18280
|
Research Institution | Nara Prefectual University |
Principal Investigator |
大和 里美 奈良県立大学, 地域創造学部, 教授 (00446030)
|
Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2021-03-31
|
Keywords | 移住・定住 / S-Dロジック / 価値共創 / 文脈価値 / ネットワーク分析 / 社会心理学 |
Outline of Annual Research Achievements |
沖縄県の竹富島での現地調査を基に、S-Dロジックの視点から定住に繋がる地域の価値創造について、社会心理学など他分野の知見に照らして分析した結果、以下の点が明らかになった。 第1に、移住者にとっての主要な価値として、①島民の島への想いとその想いによって守られてきた自然環境や文化などの島の資産、②親切・支援・信頼・結びつきというソーシャルキャピタルの蓄積とそこから生まれる安心感や安全、③自分の居場所や存在意義を感じることができ、自己実現のチャンスが与えられる、という3つの価値が認められた。なお、②と③については、それぞれMaslow(1943)の安全欲求、社会的欲求・承認欲求を満たすものであるが、移住者の属性・ライフステージによって価値評価に違いがあった。第2に、価値が共創される文脈として、①移住直後の交流に関わる文脈、②子供が関わる文脈、③島内の会合や行事などの人が集まる文脈、が重要であった。①から移住者との価値共創においても初頭性効果(Asch 1946)の影響を考慮することが必要であることが示された。第3に、移住者間のネットワークは、島民との価値共創における価値判断のためのオペラント資源の不足を補うと同時に、島の価値を共創する関係にあり、特に島民との交流が少ない移住者にとっては、移住者相互の価値共創によって創られる価値が島の価値の中心を占めていた。第4に、島内の事情に通じている定住者が、移住者と島民との間で島に関する知識や都内の情報を媒介することで、移住者の価値創造に寄与していた。 本研究による結果は、地域における社会的な交換・価値創造に関してS-Dロジックの有効性を示し、ネットワーク分析や社会心理学の知見を取り入れて、価値が認識される文脈や共創される文脈価値を明らかにすることで、S-Dロジックの精緻化を図るとともに、地域活性に関する研究に新たな視点を投じるものである。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
4: Progress in research has been delayed.
Reason
2019年度は、2019年2月に竹富島で実施した調査を中心に、移住者にとっての価値と価値が生まれる文脈、移住者と住民との価値共創における移住者間のネットワークが果たす役割について、他分野の知見に照らして分析を行い、定住に繋がる価値の創造について論文としてまとめた。 これと並行して、竹富島で得た結果を精緻化するために、石垣島で移住者を対象としたアンケート調査を現地の移住者支援組織と協力して移住者が集まる複数のイベントで実施する予定であった。しかし、当該組織を運営するメンバーの事情で2019年秋のイベントが開催できなかったことに加え、2020年に入ってから予定していた複数のイベントが新型コロナウィルス拡大によって中止になり、アンケート調査が実施できていない状況である。
|
Strategy for Future Research Activity |
引き続きアンケート票の回収に努め、9月に予定されている学会発表までに調査結果の概要をまとめる。 イベントでのアンケート票回収を中心に行う予定であったが、現状では目途がたたないため、現在、協力いただいている移住者支援組織だけでなく、当該組織から石垣市など関係機関や現地新聞社にも協力を依頼いただき、PCやスマートホンでも回答できる仕組みの構築、アンケート調査実施を広く移住者に知ってもらうための記事掲載など、様々な方法でアンケート調査を進めるための方策を講じている。また移住者が集まる飲食店の協力によって、6月末を目標にアンケート票の回収を行っている。 本年度は最終年となるため、年度内に調査結果を論文としてまとめ発表する。
|
Causes of Carryover |
当該助成金が生じたのは、主として海外の文献で発注後入手に時間を要しているものがあることや必要な論文がインターネットで入手できたためである。次年度については、引き続き必要な文献の購入を行うとともに、遅れているアンケート調査の継続と新型コロナウィルスによる移住・定住促進への影響についてヒアリング調査を行うために使用する予定である。
|