2020 Fiscal Year Research-status Report
近現代の比叡山におけるツーリズム空間化による教団システムの変容
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18K18281
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Research Institution | Meio University |
Principal Investigator |
卯田 卓矢 (ウダタクヤ) 名桜大学, 国際学部, 上級准教授 (20780159)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | ツーリズム / 聖地 / 比叡山 / 延暦寺 / 自動車道 / 交通史 / 参拝者 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究の目的は近現代の延暦寺を対象にツーリズム空間化による教団システムの変化を分析し、延暦寺におけるツーリズムの意味を考察することである。本年度の研究では、(1)戦後の比叡山の「ツーリズム空間」化の契機となった自動車道の建設経緯を検討する、(2)自動車道開業後の「ツーリズム空間」化のプロセスやそれに対する延暦寺の意識や対策を明らかにする、(3)戦後の延暦寺における参拝者誘致活動の実態と「ツーリズム空間」化の関係を考察することの3点を目的とした。 (1)では一部の延暦寺関係者が自動車道開業前に大規模な境内整備計画を構想し、観光からの収益に基づいた財源基盤の確立を目指していたこと、包括的な計画は開発業者の無秩序な乱立を抑止する意図があったこと、一方で観光開発を重視したことで内外部から批判を受けたことを明らかにし、自動車道は新たな寺院運営の仕組みに目を開かせたと同時に、その取り扱いをめぐって様々な思惑を生起させる存在であったことが分かった。(2)では参拝者の急増に伴い、外部有識者(アドバイザー)を中心とした組織が結成され、聖地維持における財源確保と観光の関係、新規自動車道の計画を中心とする受け入れ態勢の充実などが検討されていたこと、またこれらの点は「宗教イベント」と連動する形で実現していったことが分かった。(3)では延暦寺において「聖地維持としての参拝者誘致活動」の重要性が自覚され、担当部署の創設や関連企業との連携、法要時のイベント的企画の創出など、多角的かつ長期的な活動を行っていたことが分かった。 以上の成果のうち、(1)は交通史学会の学会誌に投稿した。(2)は来年度に発表する予定である。(3)は成果の一部を山中弘編『現代宗教とスピリチュアル・マーケット』(弘文堂,2020)に発表した。加えて、鉄道と社寺参詣をテーマとした図書に鋼索鉄道開業後の比叡山の変化に関する論考を執筆した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
研究活動がやや遅れている理由は、上記(2)の資料収集を前年度後半および本年度前半に実施予定であったが、Covid19の拡大によって中止・延長となり、結果的に遅延が生じたためである。Covid19の終息また移動制限解除後は直ぐに資料収集を実施し、研究を推進する予定である。加えて、各図書館のデータベースやデジタル資料等も幅広く活用し、遅滞が生じないよう留意する。
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Strategy for Future Research Activity |
次年度は本年度の研究活動を踏まえ、まずは上記(2)の調査および論文執筆に取り掛かる。それは自動車道の開業が戦後の比叡山を大きく変容させ、延暦寺の教団システムに多大な影響を与えたためである。また、こうした比叡山の「ツーリズム空間」化および教団システムの変容を正当化する論理(仕組み)についても考察する必要がある。そのうえで、(1)戦後の比叡山における「ツーリズム空間」化と延暦寺の変化の全貌をまとめる、(2)延暦寺の動態とその意味を同時代の伝統宗教(社寺)の中に位置づけ、共通性と相違性を明確にすることを今後の研究課題としたい。後者については、戦後の観光の進展の中、特に経済的基盤が脆弱な社寺は観光との結びつきを強くし、様々な主体と連携しながら聖地の維持を図っていった。一方、観光との結びつきは「観光社寺」・「俗化」批判と表裏一体であり、社寺はそうした批判に対応しつつ、自身を正当化する必要があった。本研究はこの社寺と観光の複雑な関係性を延暦寺の通時的分析によって明らかにしたいと考えている。 他方、次年度もCovid19の影響による資料調査の困難が予想されるが、その際は関連文献の購入および各図書館のデータベース、デジタル資料等の活用を積極的に実施することで、研究課題の達成を目指す。
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Causes of Carryover |
2020年度に予定していた調査がCovid19の影響によりキャンセルになったことなどから、支出が低額となった。次年度はCovid19の終息また移動制限解除後は直ぐに資料収集を実施し、研究を推進するとともに、残額を物品費等に充てる予定である。
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