2018 Fiscal Year Research-status Report
A Study of Tourism Experiences and 'Context Practices' in Islamic Tourism
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18K18283
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Research Institution | Takasaki City University of Economics |
Principal Investigator |
安田 慎 高崎経済大学, 地域政策学部, 准教授 (60711653)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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Keywords | 観光経験 / イスラーム / ツーリズム / ガイド / 文明遺産 / コミュニケーション |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、イスラーム特有の観光経験を生み出す実践を「イスラミック・ツーリズムにおける観光経験のコンテクスト・プラクティス」と命名し、その主たる舞台となる「イスラーム文明遺産」における観光経験を生み出す実践に着目し、その内実をフィールド調査・文献調査・理論研究を融合させて進めていくものである。フィールド調査では、イスラーム諸国内外のモスクや聖廟を中心とするイスラーム文明遺産において、いかなる観光経験を生み出す実践が行われているのか、その特徴を明らかにしていく。文献調査では、イスラーム文明遺産に関連する文献を収集するなかで、観光経験を生み出す実践をいかに構築しようとしていくのか、その議論の内実を明らかにするための文献収集を行った。 中東諸国(ヨルダン、クウェイト)と東南アジア(インドネシア)、東京ジャーミイ(日本)でのフィールド調査と関連文献の収集を通じて、その固有の実践内容について明らかにしてきた。いずれの場所でも、訪問者の観光経験の構築において、場所における有給・無給のガイドや案内人が、重要な役割を果たす点を明らかにした。いずれの場所でも、イスラーム文明遺産やそれを支えてきたムスリム・コミュニティの歴史や文化に触れるなかで、ホスト・ゲストのミクロなコミュニケーションを積極的に構築することで、観光経験の固有性やイスラーム的価値観を付与しようとしている点を示した。さらに、それらの経験がデジタル空間を通じて流布することで、一定のコンセンサスを得る状況についても明らかにした。 これら一連の主体によって構築される観光経験のコミュニケーション実践が、ホスト・ゲストの双方においてイスラーム的価値観を体現する宗教的意義を付与された重要な実践であることを、現代でも頻繁に引用されるイマーム・ガザ―リーをはじめとする思想家たちの歓待論・旅行論をまとめていくなかで明らかにした。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
今年度の目標であった、観光経験のコンテクスト・プラクティスの特徴をフィールド調査における地域横断的な比較から明らかにするという点では、一定の成果があがったと考えられる。特に、イスラーム文明遺産に集うムスリム・非ムスリム双方に一定の観光経験を付与するガイドや案内人の役割が極めて重要であるという点を実証的に示せた点は、大きな成果であったと考える。イスラーム文明遺産においてこれらのミクロなコミュニケーションを生み出す仕掛けを構築していく背景には、ホスト・ゲスト双方の観光経験にイスラーム的価値観を付与できるという実践の意義が十分に認識されていると考えることができる。さらに、観光産業や文化保全をめぐる実務や学術関係の議論を概観するなかでも、ホスト・ゲストのミクロなコミュニケーションの促進が、観光活動におけるイスラーム的価値の促進に重要な役割を果たしているとみなされるようになっている点で、今後も新たな動きが出てくるものと考えられる。その点は、文献調査で収集した近年の地域を越えた各国語での関連文献の充実からも推し量ることができる。 上述の一連の成果の一部を、これらの研究をこれまでの関連研究との継続性の観点から、国際学会や論文という形でアウトプットできている点では、充分に進展していると考えることができる。 他方で、地域間比較で多数の事例を扱うことで、地域固有の分脈が必ずしも考慮しきれていない点や、事例に偏りが見えてしまっている点で、今後の研究に課題を残す。さらに、ガイドや案内人以外に、いかに観光経験が構築されているのかという点や、デジタル・デバイスをはじめとする技術革新による観光経験のコミュニケーションの変化という観点を十分に考慮できていないという点では、今後の関連文献や先行研究との比較から論じる必要があると考えている。
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Strategy for Future Research Activity |
次年度では、今年度に示した「観光経験のコンテクスト・プラクティス」を生み出す制度や社会環境について明らかにしていく。具体的には、今年度までに対象としてきたイスラーム文明遺産への参与観察や関係者へのインタビューを行うことで、各主体の動機や成果といった点に着目し、イスラーム的価値観に基づいた観光経験を生み出す社会的コンテクストを解明する。あるいは、これらのコンテクストを生み出すイスラーム文明遺産が、観光の現場においていかに捉えられてきたのかについて、関連する議論を読み解きながら明らかにしていきたい。その際、引き続きフィールド調査と文献調査を基軸とする地域間比較を推進していく。 フィールド調査では、一連の観光経験のコンテクスト・プラクティスを生み出す主体としてのガイドや案内人へのインタビューや、それらをプロデュースする組織(文化財団や宗教団体、旅行会社)へのインタビューを行う。さらに、引き続きイスラーム文明遺産におけるホスト・ゲストのミクロなコミュニケーションを参与観察を継続することで、事例の更なる収集に努めていきたい。 文献調査では、今年度収集したイスラーム文明遺産の観光への活用を論じた一連の著作や記事の分析を進めることで、イスラーム特有の観光経験のコンテクストがいかに生み出そうとしてきたのか、その歴史的プロセスや社会環境についての理解を深める。その際、観光経験のコンテクスト・プラクティスとの関わりから、イスラミック・レジャー論をめぐる先行研究をまとめ、デジタル空間の果たす役割についても事例・先行研究をまとめ、その内実を明らかにしていく。 一連の成果を踏まえ、研究発信も引き続き行っていく。特に、国際会議における発表のみならず、学術論文や一般書において、イスラミック・ツーリズムの観光経験を生み出す社会環境について、ある程度概念化していくことを目指していく。
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Causes of Carryover |
英文校閲費が予定よりも少なく済んだ為。
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Research Products
(11 results)