トランスジェンダーのメンタルヘルスにおける身体・心理・社会の寄与および相互作用

2019 Fiscal Year Research-status Report

• Project/Area Number: 18K18291
• Research Institution: The University of Tokyo
• Principal Investigator: 正岡 美麻 東京大学, 医学部附属病院, 医療技術補佐員 (60794998)
• Project Period (FY): 2018-04-01 – 2022-03-31
• Keywords: トランスジェンダー / メンタルヘルス / 性別違和 / ホルモン投与 / 性別適合手術

Outline of Annual Research Achievements

すでに収集されたデータ（79名の音声に関する横断研究、75名の心理面の包括的な聴取を行った横断研究、11名の包括的縦断研究のデータ）を用い、そのメンタルヘルスについて社会的状況を切り口に含めて再分析を継続した。解析時のデータの統制のために補足的に収集していたプロフィール、すなわち現在およびこれまでの社会生活上の性別・環境、就労・就学状況、クリニック来院の動機、今後の社会の中で の自身の在り方の見通し（戸籍の性別を変更したいか否か、改名をする予定かどうか等））といった社会的状況についての因子分析、また一つの身体治療の結果に留まらない、広いトランスジェンダーのメンタルヘルスの特性、その要因について明らかにするため、「ホルモン投与者内・ホルモン非投与者内・全体のバラエティ」「経時変化の個人差」の視点から捉え直すための再分析を行い、これにより以前の分析で変数としていた身体面・心理面のデータ、比較・経時的観察の観点としていた「ホルモン投与者とホルモン非投与者の比較」「ホルモン投与中の経時変化」以外に、「社会的状況・特性」を含めたトランスジェンダーのメンタルヘルスに寄与する因子を抽出することを目的としてきた。また、それらを踏まえ、トランスジェンダーの特にメンタルヘルスに寄与すると考えられる①身体的特性（生理学的指標を含む）、②心理特性、③社会的状況、の3つを包括的・相補的に検討し得る新規調査を具体的に立案し始めた。

Current Status of Research Progress

4: Progress in research has been delayed.

Reason

本年度、ピアサポートグループ（自助団体）のトランスジェンダーを対象に質的研究を行った上で、それを踏まえて社会面の因子も充実させたメンタルヘルスに寄与する要因を探る量的研究の準備を予定していた。2018年度には性別違和による身体治療の一部保険診療適応が認められたり、戸籍の性別変更の要件に性別適合手術が含まれていることについて性同一性障害学会が提言を行ったりするなどの動きがあり、そうした公的制度の動向が落ち着いた頃の質的研究を予定していたが、本年度後半中には日程調整、実施がかなわなかった。従来データの再解析による、新規量的研究の準備は進んでいる。

Strategy for Future Research Activity

ピアサポートグループの協力に基づく社会的経験（ライフヒストリー）の半構造化面接形式での詳細な聴取に関しては、集会などの機会に参加することや面談形式で長時間話を聴く場を設けることがどの程度可能かを検討しつつ、可能な範囲で進める。状況によってはその結果を待たず、これまでのデータの再解析結果から「身体」「心理」「社会」の三側面でメンタルヘルスの把握に重要と見込まれる因子の候補を決定することとする。 決定した項目を用い、トランスジェンダーが多く来院するクリニックにて量的研究を行う。研究内容として、質問紙、身体測定、生理的指標として唾液の取得などを計画していたが、これも感染症対策の観点を考慮しながらできる形にシフトして行う。具体的には、質問紙の実施、一部身体測定の実施が現実的かと見込まれる。そこから、A．身体測定指標、質問紙による指標といった選定した因子が、実際にトランスジェンダーの心の健康を規定していたか、どの因子がより強い寄与率 であったかを明らかにする。B．直接メンタルヘルスに寄与していない項目も含め各因子がトランスジェンダーの人生においてどのように繋がっているかを明らかにする。

Causes of Carryover

実施延期となっている質的研究の参加者謝金、実施延期となっている学術集会参加費とする。