2020 Fiscal Year Research-status Report
代理懐胎を通した家族形成と身体の統治:オーストラリアを事例に
Project/Area Number |
18K18293
|
Research Institution | Kyushu University |
Principal Investigator |
藤田 智子 九州大学, 比較社会文化研究院, 講師 (20782783)
|
Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2022-03-31
|
Keywords | 代理懐胎 / 生殖補助医療 / オーストラリア家族 / 法規制 / 家族統治のネットワーク |
Outline of Annual Research Achievements |
3年目の令和2年度は、(1)これまで行ってきた調査で得られたデータの分析、(2)議会の議事録や政府文書、メディア報道などを含む資料の収集とその分析、(3)先行研究と理論的枠組みのさらなる検討、(4)代理懐胎を含む生殖補助医療の規制に関する分析、そして、(5)生殖補助医療を通した個人の身体や家族の統治と、身体に関する自己決定についてのさらなる理論的考察を行った。そのうえで、特に(3)、(4)、(5)をもとにした研究成果の発表を行った。 具体的には、まず、昨年度の終わりに行ったインタビュー調査や資料調査のデータを整理、分析した。また、新たな調査としては、新型コロナウィルス感染症の影響で現地調査が行えなかったため、日本においてアクセス可能なさまざまなデータベース等を使用して、論文や議会の議事録、政府文書、メディア報道などを含む資料収集を行った。それらに基づき、先行研究のさらなる検討と、理論的枠組みの改善・練り上げを行った。そのうえで、生殖補助医療の規制について、家族統治のネットワークという観点からの分析を行った。特にオーストラリア・ヴィクトリア州の2008年生殖補助医療法を取り上げて、生殖補助医療に関わる治療にあたり、犯罪歴や児童保護命令の記録の照会を義務付ける規定とその改正について検討した。また、これまでの成果を踏まえ、生殖補助医療と身体に関する女性の自己決定の問題についてもさらなる理論的考察を行った。 研究成果、特にヴィクトリア州の生殖補助医療法に関わる分析については、日本保健医療社会学会の学会誌に投稿した。現在、査読審査中である。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
4: Progress in research has been delayed.
Reason
当初、研究計画の最終年度である令和2年度においては、オーストラリアでのインタビュー調査・資料調査を継続しつつ、日本でもデータベースなどを使用して資料収集を行い、それまでの研究成果も踏まえ、身体のテクノロジーという観点から代理懐胎とその規制が家族・個人・社会へもたらす影響を分析する予定であった。しかしながら、令和元年度の時点で、インタビュー調査を引き受けてもらえる代理懐胎の当事者の確保に苦労し、インタビュー調査の進捗が当初計画よりも遅れていたうえ、令和2年度は新型コロナウィルス感染症蔓延のため、渡豪自体ができず、現地調査の実施が実質的に不可能となった。そのため、今年度の調査は、日本国内での資料調査にとどまった。 また、研究成果の発表については、日本国内の学会の学会誌に論文を投稿することはできた。しかし、当初の計画で予定していた、オーストラリアの学会での個人報告は、コロナ禍で通常の大会運営が行われなかったために、実施することができなかった。 以上を踏まえ、現在までの進捗状況としては「遅れている」と判断した。なお、このような事情から、本研究課題については補助事業期間の延長を申請し、既に承認されている。
|
Strategy for Future Research Activity |
令和3年度は、まず、(a)これまで行ってきた資料調査とインタビュー調査を継続して実施する。特に代理懐胎に関わるカウンセラーや弁護士、医師などの専門家、代理母や依頼者などの代理懐胎の当事者へのインタビュー調査を中心に行う。現地で、直接調査対象者に面会してインタビューを行うことが望ましいが、新型コロナウィルス感染症をめぐる状況が見通せないため、同意が得られた調査対象者のインタビューについては、ウェブ会議システム等を使用して行う予定である。新型コロナウィルスの状況が緩和されれば、オーストラリアにて現地でしか得られない資料の収集と、残りのインタビューを行いたい。 そして、(b)それらの調査により得られたデータをもとに、特にオーストラリア国内における「利他的」代理懐胎の現状やその問題点に関する分析を完成させる。その成果は学会などで報告し、学会誌への投稿を目指す。 さらに、(c)それまでの成果全体を踏まえて、代理懐胎とその規制が家族や社会、そして個人の生へもたらす影響を理論的に分析する。代理懐胎、そして生殖補助医療全体を通した身体の統治と個人の身体の自己決定に関する理論の構築を目指す。その成果についても国内外の学会等で発表するとともに、学会誌に投稿する。そして最終的にはこれまでの成果をまとめて著書として出版することを目指す。
|
Causes of Carryover |
令和2年度は、予算の多くを現地調査とオーストラリアでの学会報告の旅費として使用する予定であった。しかしながら、新型コロナウィルス感染症蔓延のため、渡豪自体ができず、現地調査が実質的に不可能となった。また、報告を予定していたオーストラリアの学会についても、コロナ禍で通常通りの大会運営が行われず、オーストラリアでの学会報告も実現しなかった。そのため、次年度使用額が生じた。なお、このような事情から、本研究課題については補助事業期間の延長を申請し、既に承認されている。
|