2019 Fiscal Year Research-status Report
家庭における外国人ケア労働者の利用と課題―フランスと日本の事例から
Project/Area Number |
18K18295
|
Research Institution | Sophia University |
Principal Investigator |
牧 陽子 上智大学, 外国語学部, 准教授 (50802451)
|
Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2022-03-31
|
Keywords | 介護 / 保育 / 外国人ケア労働者 / 在宅維持 / 女性の就労 |
Outline of Annual Research Achievements |
2019年度は、フランスの在宅保育市場の成り立ちを需要と供給の側面から分析した論文「フランスにおける在宅保育市場の需要と供給ーーパリの保育ママ・ヌリスと親の実践から」を『日仏社会学会年報』に投稿し、第30号で掲載されたほか、この論文の内容を含む単著『フランスの在宅保育政策ーー女性の就労と移民ケア労働者』(ミネルヴァ書房)を出版した。 このほか、ヨーロッパにおける福祉国家の多様性と、政策がジェンダー関係に及ぼす影響について、共著『新しいヨーロッパ学』(上智大学外国語学部ヨーロッパ研究コース編)にて、「ヨーロッパの福祉国家とジェンダー」というタイトルの章を執筆した。育児を中心に、ケア役割をどのように家庭と国家、市場で分配するか、それに政策がどのように関わっているのかについて、多くの資料とデータから紹介することで、自らの見識を広め、本研究を進める上で有用な知見を得ることができた。 また、本研究で2018年度に行ったフランスでの介護調査について、2度の現地調査で収集したデータ及び文献を整理・検討する作業に取り掛かった。インタビューデータの文字起こしを一部行ったほか、文献を精読し、問題点、論点を精査した。本研究の中心課題である外国人ケア労働者の利用と女性の就労に関して、フランスでは多様な在宅支援が存在することや、老親への子のかかわりに関する社会規範の違いから、「介護離職」という考えは存在しないことが明らかになった。 この他にも2019年度には、日本家族社会学会で行われている科研費調査であるNFRJ全国家族調査の質的調査研究会および量的調査研究会に所属し、データの精査作業にあたった。具体的には、質問紙調査の量的データのスクリーニング作業のほか、了解を得られた調査協力者に対してインタビュー調査を行い、得られた語りデータの精査(匿名化作業)や、研究利用への許諾取得などの作業にあたった。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
申請者が参加しているNFRJ調査の実査が2019年度に行われることが本研究申請後に判明したため、本研究のフランスでの介護調査を2018年度に前倒しして行った。2度の調査で、文献だけではわからない、フランスにおける高齢者の在宅維持政策の争点と、在宅維持を支えるケア労働者の存在を知ることができ、パリではその多くがやはり外国人であることが確認できた。 だが、2019年度は上述「研究実績の概要」で示したように、2本の論文を執筆し、かつ1冊の著書を出版した。フランスの在宅保育と女性の就労に関するこれまでの分析と考察を、形にして世に出すことはできたが、論文の執筆やデータのチェック作業に相当の時間が必要となったため、2018年度に行った調査結果のデータの精査や分析は、あまり進められなかった。特に日本家庭での外国人ケア労働者の利用については、まだ調査に入るまでに至っていない。 また、個人的事情ではあるが、2019年度に予期せぬ2度の入院と手術を経験し、研究にあてられるエネルギーと時間が病気のために大幅に削減されたことも大きな要因である。一度目の入院では、内視鏡処置で起きた重篤な合併症により、2か月ほど体力が衰弱した状態となった。二度目の入院で、手術により問題臓器を摘出後は、経過良好である。そのため、2020年度には遅れを取り戻すべく、研究を進めていきたい。
|
Strategy for Future Research Activity |
2020年度は、9月に再びフランスでフィールド調査を行い、不足しているデータや資料を収集する予定であった。しかし、コロナウイルスの世界的蔓延で、フランスに調査に行けるかどうかは不透明である。現時点(2020年4月)では、2021年3月に調査を遅らせることで、実施できないか検討している。 また、上記の進捗状況で述べたような理由により、日本での家庭における外国人ケア労働者の利用についての調査はまだ着手できていない。フランスに調査にいけない状況にあるため、その分、日本について調査を進めたい。まずは特区事業で外国人家事支援者事業を行う横浜市等で、フィリピン人家政婦と、利用家族にインタビューを試みたい。だがこの調査も実施できるかどうかは、コロナウイルスの今後の感染状況による。 このほか、2018年度のフランス介護調査で得られた知見について、データの精査と考察をさらにすすめ、2020年度には学会、研究会等での発表を行うことを目標にする。
|
Causes of Carryover |
前述したように、2019年度には論文2本と単著一冊を公表したため、その準備に多くの時間を割かねばならなかった。また予期せぬ2度の入院と手術のため、多くのエネルギーと時間を失うこととなった。 そのため、2018年度に行った調査のインタビューデータの文字起こし作業の依頼が、2019年度末にずれ込むことになった。年度末に発注し、納品されるのは4月以降となったため、次年度使用が生じた。これについては2020年度に文字起こし費用として使用する予定である。
|
-
-
-
[Book] 新しいヨーロッパ学2020
Author(s)
上智大学外国語学部ヨーロッパ研究コース編
Total Pages
347
Publisher
上智大学出版
ISBN
978-4-324-10789-8