2020 Fiscal Year Research-status Report
家庭における外国人ケア労働者の利用と課題―フランスと日本の事例から
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18K18295
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Research Institution | Sophia University |
Principal Investigator |
牧 陽子 上智大学, 外国語学部, 准教授 (50802451)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | 保育 / 介護 / 在宅ケア / 外国人ケア労働者 / 女性の就業 |
Outline of Annual Research Achievements |
2020年度は、新型コロナウイルスの世界的な感染拡大とそれに伴う現地調査の実施困難から、これまでに収集した調査データの処理(フランス語インタビューの文字起こし)と結果の分析、および得られた分析結果の公表に専念した。 具体的には、2020年8月に行われた日本社会学会大会のテーマセッション「移住家事労働者研究の現在と未来―『家事労働の国際社会学』を議論する」において、本研究課題の調査で得られた、フランスの高齢者の在宅療養で外国人ケア労働者の占める位置と彼女らが果たす役割に関する知見を踏まえ、「ケアの労働環境と移住労働者たちの地位向上への実践―フランスの保育・介護の事例から」と題して発表した。それまでに行っていた在宅保育分野での外国人ケア労働者の労働と介護との共通点と相違点を、彼女らの労働待遇にかかわる政策の観点から検証し、ケア労働者の地位向上への様々な実践を、現地インタビューで得られた語りを交えながら紹介した。 2021年2月には、ジェンダー学を中心とする研究者らでつくる男女共同参画推進実行委員会の中の、「フランスに学ぶパリテ法の成果と課題」研究会において、今度はケア役割(保育・介護)をもつ女性の就業の観点から、「フランスにおける女性の就業とケアの外部化」と題して、フランスの政策について検証した。政策・社会規範・女性たちの実践の三つの側面から分析し、これまでに得られた研究課題の知見を発表した。 このほか、日本の介護に関連しても、日本家族社会学会NFRJ量的調査研究会において、「老親介護と子の意向」と題し、同研究会による2019年全国家族調査の統計データをもとに分析し、日本の介護前世代の今後の介護意向について、2020年9月の研究会で発表した。これにより、日本における介護と女性の就業に今後強く影響する、若年~中高年世代の親の介護に対する考えの今日的傾向を読み取ることができた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
2020年度は、予定していたフランスでの現地調査の補足は行えなかったものの、これまでに集めたデータの文字起こしと分析に集中して取り組むことができた。これにより、上記の計3回の口頭での研究発表が実現した。しかし、論文という形での発表にはまだいたっていないため、これまでの研究の知見の論文化が2021年度の課題である。 また、3年目までに行う予定であった、日本の特区事業(東京都、横浜市)での外国人家政婦・利用家庭へのインタビュー調査と参与観察は、2020年度の国内の新型コロナウイルスの感染状況から、実施することができなかった。日本に滞在する外国人労働者の状況等についての資料収集と文献の読み込みを行うにとどまっている。
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Strategy for Future Research Activity |
新型コロナウイルスのフランスでの感染状況に対し、外務省の渡航情報では「渡航中止勧告」を意味するレベル3の状態が続いており、フランスでの再調査の実現可能性は低い。そもそも、フランスに限らず海外に調査に出ること自体がままならない状況にあり、海外をフィールドとする研究者はみな、研究の方向性の見直しが迫られている。 本研究課題においても、2018年度に行った2度の現地調査の結果を主なデータとし、どうしても必要なデータは、可能であればオンラインインタビューなどにより補足することで、知見の公表を目指していきたい。 具体的には、2021年度内に、先述の男女共同参画推進実行委員会の中の、「フランスに学ぶパリテ法の成果と課題」研究会の編著の中の1章として、2020年2月に口頭発表を行った「フランスにおける女性の就業とケアの外部化」について、本研究課題の知見を踏まえて論文を執筆する。また、同じく先述の日本家族社会学会NFRJ量的調査研究会で発表した分析「老親介護と子の意向―NFRJ2018データからみる介護意向」を論文として執筆し、学術雑誌に投稿することを目指している。 このほか、新型コロナウイルスの感染状況にもよるが、最終年度に当たる2021年度には、国内において特区の外国人家政婦と利用家庭への調査をなんとか実現したいと考えている。予定サンプル数の10~15をかなり下回ると予想されるが、もし調査への協力を得られる場合、オンラインインタビューも含めて可能性を探っていきたい。 「現在までの進捗状況」で示したように、新型コロナウイルスによる調査の困難、そして2019年度に経験した2度の入院もあり、研究の進捗状況はやや遅れている。2021年度に調査を行えた場合、そのデータ分析にかかる時間も考慮すると、2022年度への研究課題の延長申請を検討しているところである。
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Causes of Carryover |
2020年度は新型コロナウイルスの感染拡大により、現地調査を国内外とも一切行うことができず、旅費をまったく使用しなかったため。その分、これまでに得たデータの処理と分析に研究費を使用した。 発生した未使用額は2021年度に、データ解析を引き続き進めるための費用と、可能であれば国内の外国人ケア労働者を調査するために使用する予定である。
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