2018 Fiscal Year Research-status Report
日本民謡の旋律と歌詞の音韻の計量比較による地域性の分析
Project/Area Number |
18K18336
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Research Institution | Doshisha University |
Principal Investigator |
河瀬 彰宏 同志社大学, 文化情報学部, 助教 (80739186)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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Keywords | 音楽情報処理 / 日本民謡 / 音韻 / 拍節 / 地域研究 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究課題は,日本民謡の旋律と日本語の音韻の因果関係を実証的に解明することが目的である.この目的を達成するために,初年度にあたる2018年度は,日本民謡の歌詞をアクセント型(平板型,尾高型/中高型/頭高型)――高い音と低い音の2値の組合せ――に分類するための基礎データを準備した.具体的には,『全国アクセント辞書』(平山1960)において基準とされている京都式・鹿児島式・東京式のアクセントを使って歌われているそれぞれの都府県の楽曲データの作成を行った.対象は『日本民謡大観』(日本放送協会出版)に掲載されている京都府・鹿児島県・東京都(現在の地理区分)における全楽曲の歌詞とした.そして,原曲に付与されている掛け声,パート,歌詞中の意味説明などの情報を明示するタグを付与してXML形式に整備した.全体的には表記揺れの修正作業に多くの時間が費やされた. また,2019年度以降の分析において重要となる旋律中の拍節を定量的に把握するための準備として,旋律中のリズムのみに着目した分析を試験的に実施した.具体的には,楽曲データに対して確率モデルを適用して繰り返し出現する音価情報(リズムパターン)を抽出し,地域間の比較を実施した.この分析では,研究代表者が過去に構築した楽曲コーパスの中から,和太鼓を伴う東日本各地の楽曲に対象をしぼり,各地の差異がリズムパターンの頻度から見出だせることを確認した.また,北海道と北陸地方東日本における各地域の特徴と生活様式との関係性について,音楽心理,地域研究の専門家を交えて考察した.以上の分析については,日本分類学会年次大会,DigitalHumanitiesAustria,学際的研究会において報告した.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
初年度に計画していた電子データ化作業は予定通り進行しており,初期段階のデータ作成はすでに完了している.計画当初は『NHK日本語発音アクセント新辞典』(NHK放送文化研究所)に基づく分析を予定していたが,その後,方言学者・日本語学者と協議し,研究目的を遂行する上で(地域差を見出す上で),2019年度以降には他のアクセント辞典に基づく情報付与に方針を切り替えることとした.地域ごとに異なる情報を統一的な観点からデータに付与していくための指針について,方言研究者と継続的に検討を重ね,データ付与作業には方言研究を専門的に学んでいる大学院生を新たに追加する計画である.
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Strategy for Future Research Activity |
2018年度は,今後の分析基盤を構築するための方針策定と電子データ化作業に時間を割いたため,データを用いた分析は未実施である.今後の研究の推進方策として,当初の計画どおりに2019年度前半は,アクセント辞書の入力確認作業を完了させ,実際に旋律の高低情報との対応を分析する予定である.このデータ付与作業には方言研究を専門的に学んでいる大学院生を新たに追加して実施する.歌詞のアクセントの高低と旋律の高低の対応関係を3つの様式――京都式・鹿児島式・東京式――に合わせて比較し,地域ごとにそれぞれの一致度を算出することを目標とする.また,並行して旋律の拍節を定量的に抽出するための指標を考案し,全国的規模の分析を展開する.2019年度後半は,残りの楽曲に対して,歌詞のアクセントの高低情報と旋律の高低情報を対照させ,地域ごとにアクセント型の傾向を生起確率付きのリストのかたちで明らかにする予定である.
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Causes of Carryover |
(理由)当初予定していた研究の基礎データ作成にかかる人件費・謝金を科研費以外の予算から支出することが適ったため,方針を変更した次第である. (使用計画)2018年度の計画において生じた人件費・謝金の差額分を2019年度に計画しているアクセント情報の付与作業に対して支出する計画である.この作業は,当初計画していた文献以外の情報に頼る必要があり,かつ,当初計画よりも専門的で大掛かりなものとなる見込みである.そのため,方言研究・テキスト解析を専門とする大学院生を新たに作業者に加え,3名の体制で実施する計画である.
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