2018 Fiscal Year Research-status Report
伴侶動物としてのウマの社会的知性を探る:個体から集団までの多階層的アプローチ
Project/Area Number |
18K18342
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Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
リングホーファー 萌奈美 京都大学, 高等研究院, 特定助教 (20767339)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | 他者理解 / 動きの同調 / 集団行動 / 伴侶動物 / ウマ |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究では飼育下・野生下ウマを対象に、他者への「行動の同調」と「心的状態の理解」に着目し、個体から集団までの多階層的視点からウマの社会的知性を検証することを目指している。 飼育下ウマにおいては、解決不可能課題を用いてヒトの心的状態に対するウマの理解能力を検証する実験を行った。ウマが自身では空けられない桶にエサを隠す過程を見ていた(餌場所の知識がある)ヒトと見ていなかった(餌場所の知識がない)ヒトが存在する中で、ウマが各ヒトの知識状態を識別し、その後の行動を変えるかを、2つの実験によって検証した。実験1では、エサを隠すのを見ていたヒトに対して、ウマはより多くの要求行動を示した。つまりウマは2人のヒトが同時に存在する場合でも各ヒトの知識状態の違いを見分け、それぞれに対する行動を変えることが分かった。この結果は既に論文を投稿して、現在査読後の再校正をしている。実験2は現在実施中で、より複雑な状況を設定し、知識のある・ない実験者2人が選んだ(指差しをした)桶のうち、どちらを選ぶか(どちらのヒトの情報を利用するか)を検証している。 野生下ウマにおいては、2018年5~7月にかけて野外調査を行い、社会構成や行動を観察した。現在、調査中に採取した糞を用いた遺伝子解析と、ドローンで撮影したウマ群の映像を用いた動きの解析を進めている。ウマの動きの解析では、ドローン映像と動作解析ソフトを用いることで、オスによるハーディング行動(メスを牧羊犬のように追う行動)時の群内各個体の動きの軌跡を描くことに成功した。また群が動く際の個体間のインタラクションを検証したところ、オス-メス間からメス-メス間へと、2段階のインタラクションが生じていることが分かった。この成果に関する論文は既に執筆して投稿中であり、さらにオスに反応するメスの動きのモデルに関する論文も現在執筆中である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
飼育下ウマにおけるヒトの知識状態に対するウマの理解に関する実験は、フランス国立農業研究所のレア・ランサデ博士らの協力により、ほぼ予定通りに進んでいる。1つの目の実験は既に完了し、2つ目の実験も進んでいる。野生下ウマにおける行動・遺伝データの収集および血縁度や群れの動きの解析は、ポルト大学CIBIOおよび奈良先端科学技術大学院大学の池田和司教授らの協力により、予定通りに進んでいる。またこれらの研究の成果は、国内外の学術雑誌や学術図書における執筆、国内外の学会やシンポジウムにおける発表を通して、公表した。以上から、本研究は順調に進展しているといえる。
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Strategy for Future Research Activity |
飼育下ウマにおいては今後も発展させた実験を継続していき、他者の心的状態に対するウマの理解能力をさらに検証していく予定である。ただ現在、実験補助者を確保しづらい状況にあるため、実験補助者を広く募集する方法を検討している。野生下ウマにおいては、今後も毎年、ウマの出産・繁殖期に野外調査に出向いて、社会行動に関するデータ収集をする。社会関係や群構成と関連付けながら、個体~群れレベルまでの行動の同調特性にかんする研究を進めていく予定である。
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Remarks |
リングホーファー萌奈美「好きなことを仕事に!~動物行動学者としての生き方~」、帝塚山学園小学校における第6回外部講師講演会、奈良、2019年2月 リングホーファー萌奈美「DNAと動物行動学」、大阪女学院高校におけるiCeMs キャラバン、大阪、2019年3月
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Research Products
(33 results)