Outline of Annual Research Achievements |
2018年度より継続して, 小型トラッキングシステムを用いて, クロヤマアリのワーカーの歩行解析を行っていた. 見かけ上の異なるパスに, 不偏的なゆらぎ特性(ピンクノイズ)が示されることが明らかとなっていたが, 該当論文がjournal of comparative physiology A へ受理された. また, ゆらぎの解析に焦点を当てた内容についても生物物理学会にて発表を行った. 今年度は, トビイロケアリの蟻道上への合流個体の移動戦略に着目した実験を新たに行った. 直角に合流した際, 左右のフェロモン濃度はほぼ同じである. そのような場合に, 合流個体が蟻道内で, どのような移動戦略を実現するのか, どの方向へと歩みを進めるのか, またその戦略の適応的意義が何かについて, 実験およびシミュレーション双方を行うことで解明を試みた. 目的遂行のため, 往路と復路とが異なるルートとなるような2本道のメイズを作成し, 往路・復路での蟻道上の蟻の流れを一方向にした. そのような状況下で合流個体を経路に直角に備え付けられた側道から侵入させると, 蟻道の流れに反する方向へ進んでいくことが明らかとなった. フェロモンのみ, あるいはフェロモンもなしの場合では, 選択率はイーブンになることから, 他個体のフェロモン道上での流れが進路に影響を与えているものと考えられる. 以上の結果を纏め, 動物行動学会, 計測自動制御学会システムインテグレーション部門講演会で発表を行った. 加えて, シミュレーション実験も行い, 蟻道に逆流する場合の方が, 流れに沿う場合よりも, 短い時間で目的地に到達できることが明らかとなった. 以上から道にさまよう蟻は, 適応的な戦略を実行していると考えられる. これらの結果は論文に纏め, 現在投稿中である.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
コロナの影響もあり, 査読が進まず, 論文出版までに時間がかかった. 一方で, 探索蟻の歩行・移動戦略については新たな知見も得られたため, 一定の進捗は保てていると考えられる. 今後も追加実験等で検証していく予定である.
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Strategy for Future Research Activity |
トビイロケアリの探索時における移動戦略については, 直角での合流とは異なる条件下において, 他個体との作用の有無に焦点を当てる形の実験を継続して行う予定である. なお, トラッキング装置を用いた実験に関しては, 探索蟻自身の移動に合わせて適切に変化する視覚風景下とそうではない風景下での歩行解析ついて検証していく予定である. 空間把握における行為者と環境との作用について行為者の環境への言及が, 風景や視覚情報の流れにどれほど影響を受けるのかについて議論していきたい.
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Causes of Carryover |
研究テーマの遂行・進展には問題なかった一方でコロナ禍の社会情勢によって, 国内・国際学会および研究打ち合わせ等が全てオンラインに切り替わった. そのため, それらへの支出として予想されていた旅費・現地参加費および学生の旅費等に関して残額が生じたため, 次年度使用額が発生した. 繰越が認められたため, 引き続き実験備品や論文校正・出版費用として使用予定である.
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