2019 Fiscal Year Research-status Report
脳血管内治療用デバイスの構造力学モデリングによる治療戦略の患者別決定支援
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18K18367
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Research Institution | Osaka University |
Principal Investigator |
大谷 智仁 大阪大学, 基礎工学研究科, 助教 (40778990)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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Keywords | 計算バイオメカニクス / 脳動脈瘤 / コイル塞栓術 / ステント留置術 / Kirchhoff’s rod theory / 共回転系定式化 / 有限要素法 |
Outline of Annual Research Achievements |
2019年度において,大変形を許容するワイヤの計算力学モデル(2018年度に構築)を用いて,脳動脈瘤に対する治療用コイルの留置シミュレータおよび,治療用編み込みステントの留置シミュレータをそれぞれ構築した.
脳動脈瘤へのコイル留置シミュレータを用いて,脳動脈瘤の理想形状に対するコイル留置シミュレーションを実施し,コイルと壁面との摩擦係数がコイルの展開挙動に与える影響を調べた.コイル留置の初期段階において,コイルは瘤壁面に沿って規則的かつ二次元的なループ構造をとるが,さらにコイルの留置を続けると,瘤内に配置されたコイルと瘤壁面との摩擦抵抗によりコイルの座屈が生じた.その後,摩擦係数が低い場合には,コイルは座屈後も規則的な構造を維持するが,摩擦係数が高い場合には,不規則な構造を形成し始めた.これらの結果は,摩擦抵抗によるコイルの座屈および座屈後のコイルの挙動が,瘤内におけるコイルの分布形状の傾向に大きく影響する可能性を示唆する.
複数のワイヤを編み込んで構成される編み込みステント(braided stent)について,脳動脈瘤の母血管への留置シミュレータを構築し,母血管の理想形状へのステント留置シミュレーションを実施した.ここで,母血管の曲率の変化に伴うステントの展開後形状の違いを評価したところ,曲率が小さい場合には,ステントは血管全体を沿うように完全に展開したが,曲率が大きくなると,血管の上流側のステント末端部の断面が扁平化し,正常に展開しなかった.この形状は臨床的にも観察されるステントのFlattening現象と良好に一致した.さらに、曲率の違いよる展開後形状の違いについて,ステントに蓄積される弾性エネルギの観点から考察を行い,ステント展開不良メカニズム解明にむけた本シミュレータの意義を示すことに成功した.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
当初の計画以上の進展が見られ,脳動脈瘤に対する脳血管内治療,臨床において主に使用される塞栓治療コイルおよび,複数の独立なワイヤが編み込まれて構成される編み込みステント(braided stent)について,それぞれ血管内へ留置する計算力学シミュレータの構築を達成した.本シミュレータを用いた留置シミュレーションの実施により,治療用デバイスの物性や,デバイスの留置対象である血管形状の違いが,各デバイスの展開挙動や展開後形状へ与える影響を明らかにした.さらに,これらの展開過程におけるデバイスの挙動を構造力学的観点から解釈することを目指し,展開中において各デバイスに蓄積される弾性エネルギの推移を評価することで,デバイスの展開挙動を力学的観点から解釈することが可能となり、構築したシミュレータの意義を示した(Otani et al., Int. J. Mech. Sci., 2020, Shiozaki et al., Int. J. Numer. Methods Biomed. Eng., 2020).
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Strategy for Future Research Activity |
2019年度は解析対象である脳血管治療デバイスの展開シミュレータを構築し,構造力学的観点から,各デバイスの展開挙動および展開不良メカニズムの解釈が可能となった.2020年度では,構築したシミュレータの臨床への応用(治療時における臨床用デバイスの適切な選択や使用方法の提案や,留置後の治療手順の推定など)を最終的な目標に,シミュレータの高速化および解析対象の適用範囲の拡大を目指す. 現状のシミュレータでは,ワイヤの幾何学的非線形性や,複数個所での摩擦を伴う接触を表現するため,小規模ワークステーションを用いた1例の留置シミュレーションの実施(例:ステント留置)に数日程度の計算時間を要する.この問題を解決するため,より効率的な接触モデルの検討や,運動方程式の時間発展について,より安定的かつ長い時間刻みを使用できるスキームを検討する. また,開発したシミュレータにおける未定パラメータの調整や適用限界を評価するため,実際にこれらのデバイスを理想的な血管形状モデルを留置し,その際のデバイスの形状をマイクロCT計測により取得する.同様のデバイス留置をシミュレーションにおいても表現し,実際の形状とシミュレーションで得られた形状を比較し,理論的に定められない未定パラメータを同定する.
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Causes of Carryover |
研究の進展に伴い必要に応じて研究費を執行したため,当初の見込み額と使用額が異なった.前年度の研究費を含め,当初の予定通りに研究計画を進めていく.
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