2018 Fiscal Year Research-status Report
人工すい臓がん幹細胞の樹立と放射線増感ナノ粒子によるその治療法
Project/Area Number |
18K18368
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Research Institution | Kobe University |
Principal Investigator |
西村 勇哉 神戸大学, 科学技術イノベーション研究科, 特命助教 (40728218)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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Keywords | 幹細胞 / 人工癌幹細胞 / ナノ粒子 / 放射線増感 / X線 |
Outline of Annual Research Achievements |
すい臓がんを標的とした低侵襲な放射線治療によってがん細胞を根絶することが本研究の最終目標である。そのためには、腫瘍内に存在するがん細胞の根幹で、分化や転移の能力をもつがん幹細胞(CSC)を死滅させなければならない。しかし、このがん幹細胞の性質はあまり解明が進んでいない。その一番の理由は解析に必要な量を確保できないからである。そこで本研究では、iPS細胞と同様にすい臓がん細胞から人工のがん幹細胞の作製を試みた。そして、この細胞を利用して、がん幹細胞の特徴である増殖速度の遅延と薬剤耐性のメカニズムをメタボローム解析の観点から分析し、得られた知見からがん幹細胞の標的因子を定め、ドラッグデリバリーシステムとX線の併用による治療を目指している。 当該年度はまず、すい臓がん細胞からの人工がん幹細胞(iCSC)の樹立を行った。その方法は、すでに大腸がん細胞からのiCSCの樹立に成功している方法を参考に行った。具体的には、いくつかのすい臓がん細胞に初期化因子を導入し、細胞形態変化・遺伝子発現・タンパク質発現を評価した。その結果、ひとつの細胞株においてiPS細胞と同様の形態変化が観察された。そして、その細胞における遺伝子とタンパク質の発現確認において、がん幹細胞のマーカーが確認された。また、薬剤排泄能力にも差が見られ、その差によってiCSCをセルソーティングすることにも成功した。つまり、人工のすい臓がん幹細胞を作製可能であることが示唆されたため、今後、各種解析を行っていく予定である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
当該年度はまず、すい臓がん細胞からの人工がん幹細胞(iCSC)の樹立を行った。その方法は、すでに大腸がん細胞からのiCSCの樹立に成功しているOshima N. et al, (2014)を参考に行った。具体的には、すい臓がん細胞(BxPC-3、MIAPaCa-2、Panc-1、AsPC-1)に初期化因子を導入し、細胞形態変化・遺伝子発現・タンパク質発現を評価した。 まず、レトロウイルスによる遺伝子導入では、各細胞株への導入効率の指標として、赤色タンパク質のDsRed発現遺伝子を導入した。その結果、AsPC-1、MIAPaCa-2、BxPC-3、Panc-1の順で形質転換効率が高かった。BxPC-3とPanc-1においてはほとんど導入されていなかったため、AsPC-1とMIAPaCa-2を選択した。初期化因子(OKT3/4、SOX2、KLF4)を導入したAsPC-1は7日目辺りからiPS細胞のような未分化状態の細胞が観察され、12日目ではコントロールの細胞と比較して明らかな形態変化が見られた。一方、MIAPaCa-2では明確な形態変化は観察されなかった。 そこで、AsPC-1に関して遺伝子とタンパク質の発現確認を行った。まず、各遺伝子のRNA発現を確認したところ、コントロールではSOX2の発現が見られなかったが、初期化因子を導入した細胞株ではOKT3/4、SOX2、KLF4すべての発現がみられた。また、すい臓がん幹細胞のマーカータンパク質の発現をWestern blottingで確認したところ、CD24の発現量向上が示唆された。つまり、初期化因子の発現によって細胞の形態やタンパク質の発現に変化が起き、がん幹細胞となっていることが示唆された。
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Strategy for Future Research Activity |
2019年度はメタボローム解析による増殖速度遅延要因および薬剤耐性の解明を行う。まず、すい臓がん幹細胞として得られたAsPC-1において、網羅的なメタボローム解析を行う。使用する細胞株はコントロール、iCSC、このiCSCから分化した細胞の3種類を比較する。増殖速度遅延要因の解析条件は、高グルコース及び低グルコース条件下で培養した場合を比較し、増殖速度に顕著な差がみられたときの代謝解析を行う。また、薬剤耐性の解析条件は、無毒な色素であるHoechstで染色したiCSCと染色していないiCSCの代謝の変化を経時的に比較し、排出時のエネルギーやストレスの変化も観察する。これらのメタボローム解析の結果からiCSCの特徴的な代謝挙動を抽出し、CSC独自の性質として昇華することで新たな知見を得る。また、メタボローム解析だけでなく、転写(トランスクリプト―ム)解析の結果と総合的に評価する。これにより、CSCの標的因子を決定し、ドラッグデリバリーのターゲットとする。 2020年度はすい臓がん幹細胞を標的とするナノ粒子とX線による放射線増感治療を目指す。まず、放射線増感ナノ粒子である過酸化チタンナノ粒子の粒子表面にすい臓癌iCSCを認識する標的分子を修飾する。得られたナノ粒子の細胞結合能力を細胞系で確認し、生体内での分布と腫瘍への集積をiCSC移植マウスへの尾静脈投与によって確認する。このとき、腫瘍切片を作製することで、腫瘍内部でのナノ粒子の局在箇所を調べる。これらの評価により、ナノ粒子が腫瘍に集積し、その中で標的の癌幹細胞に特異的に結合しているかを確認する。腫瘍への集積が確認されれば、最終的に、ナノ粒子の投与とX線照射の併用によってiCSC由来のすい臓癌腫瘍を完全に根治可能か評価する。
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