2018 Fiscal Year Research-status Report
高分子ナノ複合体による高効率な生体膜ダイナミクス操作と応用
Project/Area Number |
18K18384
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Research Institution | Tokyo Institute of Technology |
Principal Investigator |
増田 造 東京工業大学, 生命理工学院, JSPS特別研究員 (70814010)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2020-03-31
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Keywords | 生体材料 / 高分子材料 / 精密ラジカル重合 / 生体膜透過ペプチド / 生体膜 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究課題は、高分子材料と膜破壊ペプチドのナノ複合体を設計し、これを種々の脂質膜に作用させることで環境変化を認識した生体膜構造転移を制御することを目指すものである。さらに得られた知見をもとに薬物送達・マーカーのサンプリングを行う生体材料システムとして展開する。 本年度は、基礎検討として高分子材料を脂質膜に効果的に修飾する方法について検討を行った。具体的には、精密ラジカル重合のひとつであるATRPの開始剤を親水部に導入した脂質分子を合成し、これを添加した脂質二重膜(リポソーム)から重合を行うことで"grafting from"法による高分子修飾を行うことができた。電気泳動移動度の解析から、高分子材料を複合化させたリポソームでは細胞のように「やわらかい」微粒子としての性質をもつことが示唆されており、細胞系のモデル微粒子としても有用であることが期待される。 さらに、高分子材料と膜破壊ペプチドのナノ複合体として、E5/poly(allylamine)-graft-dextran複合体の脂質膜に対する作用において、脂質膜構造の効果を検討した。E5は流動的な膜には相互作用したが、固体的な膜には相互作用しなかった。さらに、カチオンくし型共重合体存在下において、この膜に対する選択性を維持しつつ、液体的な脂質膜においてE5の膜透過性の活性化がみられた。さらに、細胞膜のモデルであるDOPC/DPPC/Chol膜においても膜透過性の解析を行うことができた。 また、高分子材料の設計としてカチオン性くし型共重合体の側鎖に温度応答性高分子を導入した混合グラフト共重合体 (PAA-g-PNIPAAm/Dex, PAND) を検討した。E5/PAND複合体を脂質膜に作用させたところ、温度変化とカップリングした膜の形態変化が可能であることが示唆された。一連の成果は学術誌および国内外の学会において発信に務めた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究課題は、高分子材料と膜破壊ペプチドのナノ複合体を設計し、これを種々の脂質膜に作用させることで環境変化を認識した生体膜構造転移を制御することを目指すものである。 本年度は基礎的知見の収集につとめた。具体的には (1)高分子材料を脂質膜に修飾・複合化する方法として、ARGET ATRPによる"grafting from"法による修飾、(2)高分子材料と膜破壊ペプチドのナノ複合体の作用における脂質膜構造の役割, (3)混合グラフト共重合体・膜破壊ペプチドのナノ複合体による脂質膜形態の操作, について検討することができた。特に、一連の成果は国内外の学会において発信することができ、査読付き学術誌への掲載にも至った。 ARGET ATRPによる"grafting from"法による高分子の脂質膜表面への修飾において、電気泳動移動度の塩濃度依存性の解析から、本手法により調製した高分子修飾リポソームは細胞のように「やわらかい」微粒子としての性質をもつことが示唆されている。細胞系のモデル微粒子としても有用であることが期待され、さらに検討を進めたい。 高分子材料と膜破壊ペプチドのナノ複合体の作用においては、流動性の異なる膜や、混合膜における挙動を検討した。細胞膜も複数種の脂質から構成されており、本研究により得られた知見は細胞系への展開に向けても有用であると考えられる。
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Strategy for Future Research Activity |
基礎的な知見を継続的に収集するとともに、初年度に得られた知見をもとに薬物送達・マーカーのサンプリングといった生体材料システムへの展開を目指す。 本研究では、リン脂質や膜破壊ペプチド、またこれらと高分子材料との複合体を取り扱うが、両親媒性分子としての性質を示すものが多い。これらの物性について、溶液の表面張力測定などを通して詳細に解析することで、その作用機序の解明につとめたい。すなわち、界面科学的な手法から、高分子ナノ複合体の作用を特徴づけるパラメータの抽出を目指す。あわせてNMR、GPC、光散乱、CDスペクトルといった種々の解析手法を用いる。 さらに、本研究で設計した高分子とのナノ複合体を実際の細胞系に作用させること、あるいはデバイス化を通して生体材料システムへの展開を目指す。たとえば、脂質膜疎水端の安定化機構を細胞表層で作用させることで表層からの高効率な薬物の導入が期待される。また、マイクロ流路内や固体基板表面に高分子やペプチドを修飾する実験系についてもあわせて検討を進める。 一連の研究成果は、国内外の学会や論文かによって加速して取り組みたい。
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Research Products
(10 results)